観光の「チカラ」で地域活性化 森下晶美 東洋大学国際観光学部教授 連載「よんななエコノミー」
2023.05.01
2000年代に入り「観光」というものが一躍脚光を浴びるようになった。現在は全国の多くの自治体が観光による経済の活性化を試行しているが、果たして「観光」は地域の活性化につながるのだろうか。
そもそも「観光」は、第2次世界大戦後の外貨獲得策という昔の話は別として、これまでは地域経済というよりも、旅行者を主体としたレジャーやホスピタリティーという視点から考えられることが多かった。この単なるレジャーという立ち位置に転機が訪れたのは、03年に当時の小泉純一郎首相が主宰した観光立国懇談会において「経済活性化の観点から我が国は観光立国を目指す」と報告書にまとめられたことがはじまりだ。
以降、観光立国推進基本法の制定、インバウンド誘致策「ビジットジャパン・キャンペーン」開始、観光庁の設立、と観光が経済や地域活性化の政策として位置づけられるようになる。
政府が国策として観光を推進する理由はこうだ。わが国の少子高齢化は著しい、このままいくと2060年には総人口8700万人、消費と生産を支える生産年齢人口は現在の約半分の4400万人となり、社会を支えることができなくなる。この目減りする人口の消費分を外国人消費で補おうというものだ。
日本人1人当たりの年間消費額は約130万円、一方、インバウンド旅行者の1回の滞在の平均消費額は1人約16万円、つまり8人のインバウンド旅行者を獲得すれば日本人が1人減ってもその消費が補える計算だ。また観光消費の良いところは、旅行者は気に入れば何度でも来てくれるし、田舎だって可能性があることだ。
さらに、訪日に限らず海外を旅する国際旅行者の数は世界的にもずっと右肩上がりで、リーマンショックなどで一時的な減少はあったものの、2010~20年の平均で前年比3.8%の割合で増え続けており、マーケットとしてもかなり優良市場だ。特に、近年、所得水準が上昇したアジア地域で国際旅行者数の伸びは著しく、地理的にも近い日本はその恩恵を十分に受けられるというわけだ。
実際、誘致策とマーケットの伸びが相まって、日本へのインバウンド旅行者数は、03年に521万人であったものが19年には3189万人へと飛躍的な増加となっている。
では、観光マーケットはこれからも将来性ある市場なのか、それが地域の活性化につながるのか、と言えば、可能性は十分にあるが実は問題も課題も山積という状況だ。これから少しずつ紹介していこうと思う。
(Kyodo Weekly・政経週報 2023年4月17日号掲載)
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