挑戦! 博士が対馬の漁師に 中川めぐみ ウオー代表取締役 連載「グリーン&ブルー」
2023.05.29

「東京大学大学院を修了した後、対馬(長崎県の離島)にIターンして漁師になった人がいるから会ってみない?」
友人からのインパクト抜群な口説き文句に、反射で「会いたい!」と答えたのは3年ほど前。その漁師、銭本慧さん(39)が自ら取った魚を携えて上京し、ファン(!)たちとの交流会が開催された時でした。銭本さんの第一印象は、爽やかな好青年。その雰囲気こそが愛される理由かと思ったのですが、会が始まって少しすると、真の魅力は"内に込めた情熱と行動力"にあると理解しました。
幼いころから魚が大好きだった銭本さん。大学・大学院で水産を学び、さらに東京大学大気海洋研究所でニホンウナギを題材に、資源回復につながる研究をしていたそう。しかし日本の漁業界が抱える多くの課題を解決するには、現場から変えるプレーヤーも必要だと、自ら漁師の道へ飛び込んだのです。
挑戦するのは「持続可能な漁業」。これまでの日本の漁業は流通を含むさまざまな構造上、どうしても薄利多売になってしまい、とにかく量を取ることが目標とされていました。
しかし量を追求し続けた結果、各地で魚資源は激減。絶滅が危惧される魚類が多数でるなど、待ったなしの状況が訪れています。
そこで銭本さんは「本当に必要な量だけ取る漁業」を提案。販売先を、飲食店や生活者への直販に絞り、ほしいと言われた分だけを取ることにしました。これならば資源に与えるダメージと食品ロスを最小限に抑えられます。
しかし直販ということは、お客さんが負担する送料はどうしても高値に。それでも選んでもらうためにと考えたのが、魚を"熟成"させるという工夫。高級焼肉店などで熟成肉が流行ってきていますが、実は魚も正しい加工を行うことで熟成が可能なのです。
傷みの原因となる血や水分を取り除いたり、脳締め・神経締めといった特殊な技術で魚のストレスや急激な死後硬直を防いだり。さまざまな技を駆使して、お客さんが感動してくれるおいしさを目指しています。
交流会で実際にいただいた魚も見事なものばかり! 食べなれている魚種さえも、うま味や食感が全然違って感動したことを覚えています。
こうした会でのお客さんの反応や販売先の飲食店からのフィードバックをもとに、加工の仕方は常に進化させているということで、その想いと情熱に私もファンになってしまいました。
現在はさらなる「持続可能な漁業」に向けて、釣りや漁業体験などのブルーツーリズムにも取り組み出しているそう。釣った魚の料理ができるゲストハウスの整備も順調らしいので、これは釣りをしに行かなくては ♪ 漁師の働き方を変化させ続ける銭本さんのチャレンジに、ワクワクが止まりません!
(Kyodo Weekly・政経週報 2023年5月15日号掲載)
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