「真昆布の森」復活を 函館の窮状、和食が危機に直面 佐々木ひろこ フードジャーナリスト(Chefs for the Blue代表理事)
2023.02.06
「数年前まで、ここは真昆布の森だったんですよ」
天然真昆布枯渇のニュースにショックを受け、現状を確かめようと料理人チームで函館に飛んだのは昨年7月中旬。冒頭のコメントは、長年の昆布研究で知られる北海道立工業技術センターの安井肇センター長によるものだ。
安井さんが指し示したスライドの写真を前に、参加者の間にどよめきが広がる。砂地と岩肌が広がる海底には、昆布はもちろん海藻も全く見当たらず、見えるのは黒々としたウニの姿ばかりだ。(写真:尾札部浜で漁の現状を聞く視察チーム=筆者撮影)
地球温暖化による環境悪化によって藻場が弱り、同時にウニやガンガゼ、アイゴ、ニザダイなどの草食性生物が活性化することで生態系バランスが崩れ海藻が消滅する「磯焼け」は、現在日本各地の海で深刻な問題となっている。函館では真昆布藻場が爆弾低気圧でダメージを受けた2016年以降、高水温の年が続き、放流稚ウニが急増して昆布の若い芽が食べられてしまうことで、再生が妨げられているのだった。
「残念ながら、食べものがないためウニも中身が空っぽで、売りものになりません」
翌朝、函館市内から東に車を走らせ尾札部浜を訪れた。道南に広がる真昆布産地のなかでも、最高級献上昆布を産してきた南茅部地区の浜だ。
同地で真昆布の流通を手がける道南伝統食品協同組合の原田靖さんが迎えてくれる。
「天然昆布が減った原因には、採りすぎもあると思います。漁期設定が厳格とはいえ、海に昆布が少ない年ほど皆一生懸命に採ってしまいますから。母藻がなければ胞子が放出されず、次世代につながりません」
同組合が管理する昆布(熟成)倉庫に伺うと、天然真昆布の不漁局面に入って8年とあって、在庫もほぼ底をついていた。今後、天然真昆布の、あのふくよかな出汁を使った料理は作れない、食べられないかもしれないという厳しい現実を改めて実感する。
真昆布、羅臼昆布、利尻昆布の3種(時に日高地方の三石昆布を加えて4種)は和食のベースとなる重要な出汁昆布だ。安井さんによると、真昆布の現在の窮状は今後、ほかの地域に広がる可能性も十分にあるのだという。万が一にも全種に影響が及んだら、和食はまさに最大の危機に直面する。料理人チームとして今後何ができるのか、考えていきたいと思う。
(Kyodo Weekly・政経週報 2023年1月23日号掲載)
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