豪の農産物輸出額が過去最高に アジア向けが急拡大 NNAオーストラリア
2024.02.03
オーストラリアの農林水産省が1月29日、2022/23年度(22年7月-23年6月)の農林水産物の輸出額が前年度比17%増の804億豪ドル(1豪ドル=約96円)と、過去最高になったと発表した。国内の穀物生産量が増加してオーストラリア産農産物への需要が高まり、世界的な供給混乱により商品価格も上昇したことが要因という。アジアを中心にほとんどの輸出市場が拡大し、中には輸出額が2倍以上に増加した輸出先もみられた。(写真はイメージ)
オーストラリアにとって、170億豪ドル相当を輸出した中国が引き続き単独としては最大の輸出相手国となった。だがそれを上回る市場が東南アジア諸国連合(ASEAN)だ。ASEAN向けの輸出額は合計190億豪ドルに上り、全体の市場シェアは過去最高の23%となった。
ASEAN各国への輸出額は平均で前年度から29.5%増加した。成熟市場の日本や米国の増加率が1桁台にとどまり、欧州連合(EU)はマイナス成長だったこととは対照的だ。
農業省はASEAN市場の拡大について、経済成長や消費者の所得増による高付加価値商品(食肉、水産物、ワインなど)の消費拡大、さらには国内消費および再輸出向けの加工産業の成長が背景にあると分析した。
一例として繊維の世界的サプライチェーンにおいてASEANの加工業界が存在感を高め、綿花の需要が急増したことを挙げた。オーストラリア産綿花の最大の輸出先はベトナムで、輸出額は約20億豪ドルと前年度を130%上回った。同国では綿花を綿糸に加工し、国内のアパレル製造で用いるほか、中国や韓国に再輸出もする。ベトナムにとってオーストラリアから輸入する最大の農産物は綿花で、前年度の小麦と逆転した。
■貿易協定で輸出倍増
主要国のうち輸出額の増加率が最大(106%)だったのは、人口が昨年半ばに14億2860万人と中国を抜き世界最多となったインドだ。22年12月に豪印経済協力・貿易協定(AI-ECTA)が発効し、22/23年度の輸出額は15億9200万豪ドルに倍増した。
綿花の輸出割当がフル活用され輸出額は前年度比201%増の4億豪ドルで、関税撤廃により羊毛輸出も2割増となった。AI-ECTAの効果はほかに、アーモンドやオレンジ、ソラマメ、水産物などの輸出増加に及んだ。
またインド政府が国内の物価高騰の沈静化を目的に導入した一時的な関税撤廃により、レンズマメの輸出額は3倍以上に急増した(6億8000万豪ドル)。オーストラリアにとってレンズマメの全輸出額の半分以上(53%)がインド向けだ。
一方、オーストラリアの輸出市場がアジアを中心とする中で、特徴的なのはメキシコ向けの輸出が4億8200万豪ドルと71%増加したことだ。20年に中国がオーストラリア産大麦の輸入を禁止して以降、オーストラリアは世界有数のビール生産国メキシコを新市場として開発。同年度の大麦輸出額は6倍以上に急増し、22/23年度も30%増と順調だ。
さらに同年度にはカノーラも初めて輸出された(1億7000万豪ドル)。今年度のカノーラ輸出額はすでに2億豪ドルを超え、農業省は人口と飼料需要の増加により今後も成長すると予想している。
■多品目で価格上昇
オーストラリアの好調な農産物輸出は、高水準な商品価格にも支えられた。最も価格が上昇したのはバイオ燃料の原料となる獣脂で、直近3年間の平均価格に比較し約55%上昇した。世界的な原油高を背景に、輸出額は22/23年度に初めて10億豪ドルを突破した。
また、世界的な穀物価格の高騰にも恩恵を受けた。小麦と大麦の輸出価格は同30%以上、ソルガムも20%以上値上がりした。競合する主要輸出国の生産条件の悪化による世界的な供給の減少や、ウクライナ紛争による黒海周辺国の穀物輸出への圧力が要因だ。
関係国が黒海からの輸出再開に合意した黒海穀物イニシアチブにより圧力は緩和したものの、昨年7月にロシアが脱退し再度不安定になり、農業省は23/24年度も価格は高止まりすると予想。小麦価格は6%下落にとどまり1トン当たり490豪ドル、大麦は4%下落の同308豪ドルとした。
さらに綿花も米国の干ばつやパキスタンの洪水など世界的な生産減少を受けて価格が大きく上昇した。オーストラリアの輸出価格は前年度比31%値上がりし、需要増と相まって綿花はオーストラリア産農産物の輸出額ランキングで、前年度の7位から4位に上昇した。
このほかの品目も輸出価格は直近3年の平均と比較して、乳製品で約30%、生体牛で約25%、レンズマメが約15%値上がりした。レンズマメは同ランキングで初めてトップ10の輸出品目となった。
■今年度は減速予想
22/23年度にオーストラリアでは十分な降雨があり、豊富な穀物生産量が世界からの強い需要への対応を可能にし、高い輸出価格の恩恵を最大化した。一方で北米やEUでは干ばつが穀物の生産に打撃を与えたことで、オーストラリアは22年(暦年)にカナダや米国を抜き、EUに次ぐ世界2位の小麦輸出国となった(国連Comtrade2023)。
米農務省(USDA)は、こうした厳しい気候条件は23/24年度にも影響するとしている。一方でオーストラリアの農業省も先月、同年度の輸出額は720億豪ドルに減少するとの予想を示した。乾燥により穀物の生産が縮小し、畜産も輸出量の増加が相場の下落に相殺され、輸出額が減少するという見通しだ。ただ、減速するものの過去2番目の輸出額になるとみられている。
(オセアニア農業専門誌ウェルス(Wealth) 2月2日号掲載)
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