ローリングストックで対象拡大 防災食品、地方では不備も 田中宏和 矢野経済研究所フードサイエンスユニット上級研究員
2022.06.16
2011年3月の東日本大震災以降、16年に熊本地震、18年には北海道胆振東部地震が発生した。22年版防災白書によると、台風や豪雨・豪雪・噴火も含めると、東日本大震災以降20年7月までに、多数の死者が出て政府の対策本部が設置されたような大きな自然災害は12件に達し、日本列島は年に一度は大災害に見舞われていることになる。
度重なる災害を受けて、日本では古くから防災行政の整備が進められてきた。現在、多くの自治体では災害対策基本法に基づき、帰宅困難者対策条例やガイドラインを制定している。
例えば東京都は、都・区・市町村ごとに計1500万食を超える食料を備蓄する。都内に事業所がある民間企業や病院・介護施設、学校では、そうした条例やガイドラインに基づき災害対応マニュアルを作成し、従業員らの食料に支障を来さないよう、数日分を備蓄している。
従来、災害時の備蓄食といえば、乾パンや缶詰、パックご飯、ミネラルウオーターが定番であったが、最近では総菜やデザート、栄養補助食品など、おいしさや栄養を重視した食品も商品化している。普段食べる商品が、災害用に位置付けられるようにもなってきた。(写真はイメージ)
この背景には、内閣府が提唱する「ローリングストック」が食品や流通業界にも浸透してきたことがある。賞味期限まで待って買い替えるのではなく、普段の食事で消費した分だけを補充し、食べながら買い足す方法で、これを日常化することにより非常時に備えるという考え方である。
普段の食事に利用する缶詰やレトルト食品を一定期間備蓄し、賞味期限が切れる前に製造日の古いものから使い、使った分を新しく買い足し、常に一定量を確保しておく。
大災害発生時には、公的な支援物資はすぐに届かず、コンビニなどの店舗にも人が殺到し、すぐに商品が無くなる可能性が大きい。そのため家庭での備えの重要性が指摘されている。
一方、民間企業や病院・介護施設、学校などでこうしたローリングストックを持つことは困難であることから、災害用に賞味期限を延長した防災食品の備蓄が必要となり、賞味期限5年の商品を中心に普及している。
防災食品市場にはアルファフーズ、尾西食品など専業メーカーほか、井村屋グループ、カゴメ、日清食品などなじみのある加工食品メーカーも参入している。
近年、賞味期限のさらなる長期化、おいしさ、保管しやすさに対する実需者ニーズが高まっていることを受けて、賞味期限の超長期化(7年以上)、アレルギー・ハラル対応、おいしさ・保管性を高めたレトルトタイプの商品ラインアップが増えている。
矢野経済研究所は災害時の備蓄用に賞味期限を3年以上に延長した食品を、防災食品と定義している。2021年度の防災食品市場は、メーカー出荷ベースで312億8300万円となった。26年度には319億900万円(21年度比2.0%増)に拡大すると予測する。
関連記事:防災食品市場は伸び悩みへ 21年度は入れ替えで2割増
東京都や政令指定都市に事業所がある大企業や病院・施設などを中心に、防災食品の備蓄は拡大しているが、地方の中枢・中核都市では帰宅を優先し、備えのないケースも少なくない。
こうした状況下、大規模な災害発生時に備蓄が不足する可能性もあることから、防災食品は備蓄の啓発とともに、全国的な普及の底上げが必要と考えられる。
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