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物価高に農家も悲鳴  揺れる食料安保  小視曽四郎 農政ジャーナリスト

2022.03.21

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物価高に農家も悲鳴  揺れる食料安保  小視曽四郎 農政ジャーナリストの写真

 日本人の食卓と農業が物価高で大揺れだ。コロナ禍に対応するため金融緩和で投機マネーが生まれ、経済活動の再開で石油や食材原料の国際相場高が高騰している。

 食料供給を安易に海外に依存する構造が直撃を受けているのだ。各種食料品は値上げラッシュ。収入が伸びず苦しい家計を記録的な食品価格の高騰が襲う。50年前の実力という円安も手伝ってかエンゲル係数も急上昇だという。救いはコメや野菜の値段が低迷する国産食料だというが「とんでもない。肥料、飼料、牧草など輸入資材や燃料高騰でこのままでは経営はもたない」との悲鳴が農業現場からも上がる。

 農家経営の環境を示す2021年農業交易条件指数は、20年の109.0から大幅に悪化し100.7と採算ギリギリだ。これは「農家経営としては赤字の可能性」(農林水産省)を示しており、とても価格面で消費者を助ける「調整弁」を買って出る状況ではない。それどころか価格低迷と輸入生産資材上昇の板挟みに農家があえぐ事態にある。「農家経営は持続不可能な状態」(東北地方の農業協同組合職員)だ。

 国際的な食品価格が記録的に高い(1月では1990年の統計公表以来の135.7)のは、食肉に対する世界的な需要の高まりでオーストラリアなどの生産国が対応できなかったためだ。食肉生産に必要な穀物や食用油生産が異常気象で十分に確保できなかったことが響いた。最大の輸出先である日本への供給も減少し、ほしくても買えない事態だ。

 野菜に関しては中国が内需を優先するとの情報があるほか、米国産オレンジの入荷は不安定。牛肉も国内卸価格が35割上昇、「2022年も仕入れにくい」(業界内)という。小麦も輸入が減り価格は2割増し。これはもはや一時的ではない。日本の食卓や農業をめぐる環境は様変わりし「食料や農業を支える輸入資材は金さえ出せばいつでも好きなだけ買えるし、買えばいい」という時代は終焉した。

 コロナ禍が終わっても気候変動や中国という輸入大国の存在、日本経済の長期低迷、ウクライナ情勢など波乱含みの流れは変わらない。頼るべきは自国の農業だ。農家の意欲と農地を大切にしたい。転作意欲に水をさす水田交付金の見直しなどをやっていては、いつまでたっても政府への信頼は生まれない。

(Kyodo Weekly・政経週報 2022年3月7日号掲載)

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