身が引き締まり肉厚 対馬と言えば穴子 小島愛之助 日本離島センター専務理事
2023.02.13
昨年12月に長崎県の対馬島を久方ぶりに訪問した。
釜山から約50㌔の距離にあるという韓国に近い島であるが故に、近年韓国からの観光客でにぎわい、2018年のピーク時には年間約41万人の韓国人観光客が訪れたという。
その後、日韓関係悪化の影響で韓国からの人流に陰りが見られ、加えて新型コロナウイルス感染拡大に伴う緊急事態宣言などによって国内からの観光客も期待できなくなっていた。
筆者が訪れた際には、全国旅行支援の効果もあって、かなりの人出があり、ホテルなどもほぼ満室状態だった。今後この活況が維持されていくことを期待したい。
対馬に関する最近の話題は何と言っても「対馬博物館」の開館である。県立対馬歴史民俗資料館を前身として、長崎県と対馬市を事業主体として昨年4月30日に開館した。
対馬藩主だった宗氏ゆかりの資料「宗家文庫」8万点を中心に11万2000点を収蔵し、対馬島内の遺跡出土品、仏教美術、朝鮮通信使関連資料など約500点を常設展示している。ちなみに日本離島センター発行の季刊誌「しま」第1号(当時は全国離島振興協議会発行)の複製も展示されている。
対馬博物館の沿革は2000年の「日韓コアシティ21計画」にさかのぼると言われている。県立対馬歴史民俗資料館や対馬ビジターセンターなどを統廃合の上、宗氏の居城だった金石城の建物遺構の復元施設を取り込み、国際文化交流研究センターを建設・設立するという構想だったそうだ。
その後、04年3月の広域合併で対馬市が発足すると、対馬国際交流ミュージアム(仮称)の実現が動き出すことになる。17年12月に着工し、22年4月の開館にたどり着いている。
今回、宗氏菩提寺の万松院も改めて訪れた。以前のコラムでも触れたが、本堂の中には、朝鮮国王から贈られた三具足や徳川歴代将軍の位牌が並んでいる。さらに132段に及ぶ百雁木と呼ばれる石段が幽玄な雰囲気を醸し出している。
この石段を上がった場所に宗氏一族の墓所である御霊屋があり、巨大な墓がずらりと立ち並んでいる。この御霊屋は、金沢市の前田藩墓地、山口県萩市の毛利藩墓地とともに日本三大墓地の一つとも言われている。
さて、今回の味覚であるが、NHKの「ブラタモリ」で対馬を特集した際に、タモリに「前回は穴子を食べるためだけに対馬に来た」と言わしめた穴子を紹介したい。
20年のデータによると、穴子の漁獲量は、長崎県、島根県、宮城県の順で多く、この3県で全国の47%以上を占めている。特に長崎県の対馬沖で捕れる穴子は、海流の速さから力強く泳ぐので身が引き締まり、餌の豊富さも相まって、肉厚で脂の乗りが良いと高い評価を受けている。
こうした穴子を伝統の生け魚かご漁で捕り、新鮮なまま活け締めにして提供している。刺身はもちろんのこと、煮物、焼き物から天ぷらまでさまざまな食べ方が楽しめる(写真は煮穴子丼)。筆者は今回、穴子カツをいただいたが、非常に肉厚でおいしかったことを申し添えたい。
(Kyodo Weekly・政経週報 2023年1月30日号掲載)
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