地域の「違い」楽しみたい 冬の食「おでん」「関東煮」 植原綾香 近代食文化研究家
2022.12.05
関東育ちの私にとって関西の食べ物は知らないことばかりだ。くるみ餅、ちょぼ焼き、ちりとり鍋など、これは何だろうと思うメニューを見つけると、どんなに便利になっても全国均一化されることのない食の差異に心が躍る。
そんな食いしん坊にとって、違いを楽しみたい冬の食におでんがある。おでんのルーツは諸説あるが、田楽(でんがく)の御所言葉(皇族や公家が使っていた言葉)である「お田楽」から派生した呼び名で、みそを塗って焼いた豆腐田楽がこんにゃく田楽へと変わり、幕末から明治ごろにしょうゆ汁で煮込む調理となったという。関西では、東京からおでんと呼ぶ煮込みおでんが進出してきたが、みそ田楽のことをおでんと称していたため、関東煮と呼んだそうだ。
一説によれば、1923(大正12)年の関東大震災後に、東京から移住した料理人が煮込みおでんを売り出し、この関東煮が関西風おでんとなり、工夫や改良をへて東京に逆流入したという。震災後に移住した料理人が持ち込み広まった点には議論の余地がありそうだが、震災によって、東京から上方へ人が流入し、その後、上方料理の東京進出がおでんに限らず盛んになった点は、当時の文献を見てもそうであると思う。
上方料理の進出を受けて、昭和初期には、東京と大阪の食味の比較も増えているようにみえる。落合美作男は「おでん屋評論(『食道楽』昭和4年9月号)」で、「大阪のおでん屋が酒を第一主義にしているのに対し、東京のおでん屋は飯を食べさせることが本位で、酒は第二になっているらしい」とある。大阪でうまい酒を飲みたければ、まずおでん屋へ行けという。(写真:松崎天民著「銀座」=銀ぶらガイド社、昭和2年、国会図書館所蔵=掲載の広告)
さらに柔らかくおいしいタコをだす店があるのも大阪の特徴だそうで、老舗「たこ梅」では、現在もたこ甘露煮が看板メニューだ。当時、「たこ平」、「たこ安」とタコを店名にする店も多かったようだが、「たこ梅」によれば、「江戸、明治のころ、コの字型のカウンターの真ん中に店主が立って、お客様の求めに応じて四方八方へ手を伸ばすさまがタコのようだということから、カウンター形式の店を『たこ〇〇』」と呼んだという。
一方、東京は「酒よりも小物皿、鍋物、椀物を得意とし、おでんよりも茶飯に風味の個々性を見せて」いたそうだ。大正12年から続く「お多幸」は「特製とうめし」が名物で、茶飯の上に大きな豆腐が載るそのビジュアルは、今も茶飯に力が入る東京おでんを感じる。
ところで60年代に流行った広告に「違いがわかる男」というコピーがあったが、グローバル化や多様化とともに「違いを楽しむ人」に変わったそうだ。各地域の食の「違いがわかる」のは難しくても、どんなときも「違いを楽しむ人」でありたい。
(Kyodo Weekly・政経週報 2022年11月21日号掲載)
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