ピートロを「もう1皿」 前橋で楽しんだ豚ホルモン 眉村孝 作家
2022.05.16
2月下旬に学生時代の友人と訪れた赤城山・大沼(前橋市)。氷上ワカサギ釣りに難儀したものの、大沼で捕れたワカサギのフライを食べることができた。経緯は先日とりあげた通りだ。
氷上ワカサギ釣りに挑む 赤城山の湖・大沼
私は満足したが、なんとなく落ち着かない。友人はこの旅を今ひとつと感じているのではないか。ふと思いついたのが「帰りに赤城山の秘湯に入り、その後に前橋の街中にある豚ホルモン焼きの『三番ホルモン』に寄る」というアイデアだった。
以前、前橋で働いていたころのこと。首都圏に住む知人の多くが群馬県には「地元ならではのおいしい食」を期待していないのにがっかりさせられた。「よい温泉はあるが食はねえ」。彼らは決まってこんな言葉をもらした。そんな知人たちを連れていき、驚かせる場所が前橋や高崎の豚ホルモン焼きの店だった。
当時、首都圏でホルモンやもつ料理の店といえば牛肉が中心だった。私自身も前橋に赴任するまでは豚ホルモンを食べたことがなかった。だから知人たちに「豚ホルモン焼きの店に行こう」というと、好奇心から「おもしろそう」と歓迎する人たちと、警戒する人たちに分かれた。
ホルモン焼きの店はたいてい、煙がたちこめている。壁や床には独特のにおいがしみこんでいる。だが県内の食肉加工施設から仕入れた肉はどれも新鮮。何よりもビールが進む。内臓類が苦手な人を除けば、店を出るころには豚ホルモンのファンになるのが常だった。
2月末のその日。友人を連れていった三番ホルモンはこれまで何人もの知人を案内した店だった。メニューには10種類以上の部位が並ぶ。早くに入店したので客はわれわれだけ。友人は興味深そうにメニューを見たが、表情が硬そうにも見えた。
首の部分で脂がのったピートロ(写真、筆者撮影)、レバー、中トロ(大腸)、肩ロースを注文する。まずはピートロ。脂がレンジから落ちパッと炎が上がる。友人は焼き上がったピートロをたれにつけ口に入れる。「何これ」と驚きの声を上げる。一通り食べた後に、彼は「もう1皿いこう」とピートロを再び注文した。三番ホルモンまで彼を連れてきてよかったと確信した一瞬だった。
これまで群馬の豚ホルモン店に通いながら、なぜ群馬で豚ホルモンが好まれるのかを聞いてきた。「群馬では豚肉生産が盛ん。ロースなどは東京へ出荷し、自分たちは残った安いホルモンを楽しむ」という説を何度も聞いた。畜産統計によれば、群馬県の豚の飼養頭数は64万頭(2021年2月現在)で全国4位。あり得る話ではある。
その日、群馬県内はまだまん延防止等重点措置の期間中だったので、アルコールは飲まず、ひたすら豚ホルモンと野菜だけを食べた。2人でおなかいっぱいになって会計は4210円。この安さもまた、豚ホルモンの魅力である。
(Kyodo Weekly・政経週報 2022年5月2日号掲載)
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