食べ物語

氷上ワカサギ釣りに挑む  赤城山の湖・大沼  眉村孝 作家

2022.04.11

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氷上ワカサギ釣りに挑む  赤城山の湖・大沼  眉村孝 作家の写真

 今年の冬は寒かった。新潟県津南町では2月24日に、419㌢と観測史上最深の積雪を記録した。気象庁によると、全国331の観測地点のうち、最深積雪の記録を更新した地点が12もあったという。

 寒い冬が得意なわけではないが、雪や氷の上でのアクティビティーには目がない。「このコラムのネタにできるかも」という下心もあり、2月下旬、学生時代からの友人と群馬県前橋市の赤城山にあるカルデラ湖大沼(おの)の「氷上ワカサギ釣り」に挑んだ。

 初めて冬の大沼を訪れたのは2010年1月。その日、標高1345㍍の大沼では雲が立ちこめ、肌を刺すような風がぴゅうぴゅうと吹いていた。湖を望むと、凍った湖面にカタツムリ型の小さなテントが点々とあった。同行した前橋生まれの知人に教えてもらい、それが氷上ワカサギ釣り用テントであることを初めて理解した。

 その日は寒風を嫌い早々と大沼を後にしたが、後に「釣りをすればよかった」と思うようになった。テレビで見る氷上ワカサギ釣りは、氷の穴から釣り糸を垂らすと、いくつものワカサギがかかる。大沼で釣り用品を貸す旅館では、釣ったワカサギを揚げてくれるサービスもあるという。なんともぜいたくな遊びではないか。

 だが次の機会はなかなか訪れなかった。温暖化の影響で、大沼は結氷しにくくなっている。11年の東日本大震災原発事故により、大沼から微量の放射性セシウムが検出される時期もあった。気づけば、最初に大沼で氷上ワカサギ釣りを目撃してから12年がたっていた。

 久しぶりに訪れた大沼は全面結氷し、雪も数センチほど積もっていた。青空に恵まれ、風も穏やか。湖面を歩き回るだけでも気持ちがうきうきとしてきた。

 だが肝心の釣りはテレビのように簡単ではなかった。針にエサをしかける作業も、糸を竿につける作業も細かく、老眼が進行中の私たちにはきつい。私は針を指に刺し、友人は針を服にひっかけた。エサの白サシ(生きたイモムシ=ハエの幼虫)を素手で扱うことにも閉口した。

 苦労してエサをいくつかしかけ穴に糸をたらした。ユーチューブの「完全マニュアル」通りにやってみたが、釣り糸はゆれない。用具を借りた青木旅館の人によると「大沼は元々ワカサギのエサが多い。それにシーズン後半になるとワカサギは学習するので釣りのエサに食いつきにくくなる」という。周りを見回しても豊富な釣果に恵まれた人は少ない。シーズン当初ならともかく、2月末に「ビギナーズラック」を期待するのには無理があったのだ。

 昼近くになり12年前と同じように寒風が強くなり始めた。あきらめて青木旅館に戻りワカサギフライ定食(写真:筆者撮影)を注文した。さっぱりとしたおいしさ。しかしわずかに苦味がある。その苦さが今日のワカサギ釣りと重なるように思えた。

(Kyodo Weekly・政経週報 2022年3月28日号掲載)


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