生産者を敬って進む ワイン商としての道 石田敦子 エノテカバイヤー
2021.08.30
ワインのボトルにはたくさんのドラマが詰まっている。
ワイン商として、その魅力を伝えることは私たちの最大のミッションであるが、ワインビジネスそのものにも人生の哲学を学ぶ場面があふれていて、生産者たちからはもちろん、エノテカ創立者であり、私にとっては育ての父ともいえる廣瀬恭久会長からも多くを学んでいる。
実の父親と1歳違いで、その距離感や存在感も"父"として一方的にしっくりくる部分もありながら、一生届かぬカリスマ的存在だ。
(写真:フランス・ボルドーの著名なワイン商・生産者のクリスチャン・ムエックスさんの自宅で。右から廣瀬会長、ムエックスさん、筆者=2011年4月)
生産者を敬うこと。自分たちはワインの造り手ではないが、自然を相手に毎年"ビンテージ"を生み出す生産者の苦労や責任を理解すること。意見をはっきり伝えること。心を寄り添わせ、そのボトルに込められたメッセージを大切に味わうこと。論理的な理由、冷静な判断はビジネスにおいてマストだが、ゼロから何かを生み出すエネルギーと情熱が、ときに奇跡を起こすこと。
生産者と腹を割って話すためのマニュアルはなく、人と人だということも、廣瀬会長の立ち振る舞う姿とそれぞれの場面に登場した偉大な生産者たちから学ばせてもらい、今の私はある。
先日、エノテカ32年の歴史について、創業当時にさかのぼり、いつからどの生産者と取引を開始したのかを整理する機会があった。
生産者の扉が開く瞬間には華やかな武勇伝も多くありながら、何もかもがトントン拍子だったわけではなく、山あり谷ありだったこともよくわかる。
同時にワインビジネスにおいて、スタートも大切だが、「継続の力」こそ、重要であり大変であるとも気づく。
サプライヤーと"新婚"から"おしどり夫婦"になるまでの道のり、年数を重ねるからこその良さと深さ。それぞれのタイミングでの世代交代。誰もが先行き不安になったコロナ禍においてのコミュニケーションも、まさに関係が試されるテストでもあった。
何を考え、何を思い、何ができて、何をベストだと思い、今どうしているのか。それを相手に伝えること、連絡することで物理的な距離が縮まり、信頼は築かれ、歴史のバトンはつながれていく。
ワイン商としての継承。ワインの時間軸はとても長く、生産者たちとともに、今だけではなく、未来につないでいくために歩むことが求められる。
経験も実力もまだまだ未熟な自分だが、情熱、品格、ユーモアを大切に、ワインを愛し、生産者を敬い、ワインの楽しさや奥深さを一生追求しながら、ワインが持つ豊かさを広げて伝えていけるようにワイン商の道を進めたらと思う。ワインの魅力は尽きない。
この連載のおかげで、ワインに携わる幸せを、言葉で残すチャンスをいただきました。1年間ありがとうございました。
(KyodoWeekly・政経週報 2021年8月16日号掲載)
昨年8月に第1回を掲載した石田敦子さんの記事は、今回が最終回となります。
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