開けてみようワインの扉 石田敦子 エノテカ バイヤー
2020.08.24
ワインの輸入販売を手掛けるエノテカ(1988年創業)のバイヤー、石田敦子(いしだ・あつこ)さんが、ワインの魅力を語ります。(写真:イタリア・ピエモンテのバローロで畑の説明を聞く筆者=右=2019年1月、出張時)
ワインのボトルにはたくさんのドラマが詰まっている。
私は大学新卒でワイン業界に飛び込んでから約20年。現在、主にフランス、イタリアワインの買い付けの仕事をしている。新型コロナウイルスの影響で、今は出張ができないが、通常、年に数回現地を訪問している。
入社前、私にとってワインは日常の飲み物ではなかった。特別な存在で、友人と飲みに行くときに、ちょっと背伸びをして飲むのがワインだった。
けれどイタリア留学を通じてそれが変わった。日常生活に溶け込むワインを知り、イタリアの友人はワインを身近に楽しむ魅力を教えてくれた。銘柄など細かい知識はなかったが、ワインを囲む空間には幸せがあふれていて、一気にワインとの距離が縮まった。
ワインの仕事をしている今、私はほぼ毎日ワインを飲んでいる。仕事でも、仕事でなくても、常に「ワインラヴァー(恋人)」として。
ワインは生活必需品!と胸を張って言えるが、そんな今でも、私にとってのワインは「あたりまえの日常」ではなく「身近なときめき」だと感じている。
日本におけるワインの楽しみ方の中には、どこかルールやセオリー、何も知らずに飲んでいいのかな?という、暗黙のプレッシャーみたいなものが、ワインの扉を開けにくくさせてしまうこともある。
ワインは奥がとても深い。知れば知るほど無限の世界が待っている。ただ、ワインは飲むためにある。扉は誰でもいつでも開けていい。まずは、いつもの日常生活に1本のワインを仲間入りさせてみてほしい。食事もいつものまま、枝豆、ハンバーグ、マーボー豆腐。いつもの食卓にときめきは生まれる。
私は小さいころから、人が集まって飲む空間=幸せで楽しい、と思って育った。母は料理上手で、父は誰かと食べて飲むことをこよなく愛する、のんべえだった。
私がワインに携わるようになり、父もワインを頻繁に飲むようになったが、詳しくなることもなくこう言っていた。
「正直ワインの味や香りがどうのこうのというのは、言葉にできないね。ただ、今日のワインもうまい。ワインが持つストーリーは最高。それを聞きながら飲むのはのんべえとして最高だな」
振り返ると、ワインの扉は父にはなかった。肩の力を抜いて楽しむ姿は、この仕事を始めた原点のようだ。1本のボトルを通して広がるワインの世界、飲む度にある発見。私がバイヤーとして探しているのは、おいしさはもちろん、ワインが持つドラマであり、造り手の思いだ。
今のような時期だからこそ、ますます増えてほしい、身近なときめき。尽きないワインの魅力を、これからみなさまへお伝えしていきたいと思います。
(KyodoWeekly・政経週報 2020年8月10日号掲載)
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