「癒しの味」を求めて ベジブロスから考える タカコナカムラ ホールフード協会代表理事
2020.10.30
料理家のタカコナカムラさんは、安全な食と暮らしと農業、環境を考えて活動するホールフード協会の代表理事を務める。今回は安全でおいしい野菜について語ってもらった。(写真は同協会提供)
野菜の皮やへたを煮込んで作るだし「ベジブロス」を紹介した前回(ベジブロスの薦め/野菜皮からだし作り)はこちら。
ベジブロスは野菜の皮や根っこを使うため、できるだけ安全なものを選んでほしいと考えます。それは残留農薬の心配があるからです。私がベジブロスを提唱し始めて30余年もたつのになかなか普及しないのは、「安全な野菜」を選ぶことを条件に入れているからかもしれません。
健康な土から育てられた野菜で作るベジブロスは甘みを感じ、奥行きのある優しい味の野菜だしができます。ところが、輸入野菜や農薬、化学肥料で育てられた野菜は、えぐみや苦味のあるベジブロスができてしまいます。
なぜなのかは、科学的に検証したわけではありませんが、それを過剰な農薬や化学肥料を使用した野菜に感じる「激しい味」ではないかと思っています。
地球上の食べ物の中で、野菜ほど、人間を癒し、何兆個の細胞までエネルギーを伝えるものはないと思っています。近年では、その癒しの成分は「ファイトケミカル」というものであること、優れた抗酸化成分を含んでいることも解明されてきました。ファイトケミカルも、激しい味ではなく、「癒しの味」なのです。
今の食べ物は、「激しい味」でなければ売れません。人工的な添加物や工場で大量に生産された調味料で作られた加工食品には、カロリーや栄養価はあっても、「癒し」や「魂を育む力」はないと思っています。
「有機野菜は高い」「体にいいと分かっていても、どこで買えばいいの」「近くに売っていない」という声をよく耳にします。
洋服やアクセサリーは気に入るものを求めるのに、手間をかけて探すでしょう?おいしいレストランだって検索して探してわざわざ遠くまで行きますよね?
ベジブロスを取り始めると野菜の素性が気になります。私は安全でおいしい野菜をこれからもずっと食べたいです。おいしい調味料も欲しいし、お米も日本酒も飲み続けたいです。
これらは全て土から生まれるもので、農業が続いていかなければ、本物のみそもしょうゆも日本酒も作ることができません。
農業が持続可能に続けていくためには、安全な水や空気、森や川が絶対に必要なのです。東日本大震災の津波や原発事故そのことを思い知ったはずではないですか?
豊かな土や水が作物を育てる、このことを今、一度、多くの人たちに感じてほしいと思います。
「Whole Food(ホールフード)」は私の生き方の指針です。直訳すると丸ごとの食べ物という意味ですが、健康で豊かな暮らしを望むとき、食べ物だけ気を付けるのではなく、暮らし方(life)も、農業のことも、環境も丸ごと考えていかなければ実現できない。それをホールフードライフと呼んでいます。
ホールフードな料理で、最もシンボル的なものがベジブロスです。ベジブロスが、アンチエイジングや健康法のひとつではなく、日本の農業を考えるきっかけになってくれることが私の目指すゴールです。
ベジブロスのレシピ本を上梓しました。野菜だけの基本のベジブロスに加え、「魚のあらと野菜」「骨つきの鶏肉と野菜」の応用編も紹介しています。コロナ禍、ベジブロスが多くの人の免疫アップになれば、幸いです。
「野菜・魚・鶏肉の栄養とうま味を"まるごと"いただく奇跡のだし べジブロス」タカコ ナカムラ著(パンローリング、税別1500円)
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