「モダンラグジュアリー層」と地方のポテンシャル 森下晶美 東洋大学国際観光学部教授 連載「よんななエコノミー」
2024.12.16
国内におけるオーバーツーリズム問題が大きくなってきている。その解決の糸口になりそうなのが地方の観光である。
オーバーツーリズム対策の一つとして良質な旅行者に来てもらおうと政府は観光の高付加価値化を進めているが、そのターゲットとなっているのが富裕層旅行者だ。1回の滞在で1人当たり100万円以上を消費する旅行者のことで、日本政府観光局(JNTO)によれば、欧米豪の5市場(米、英、独、仏、豪)だけでも約340万人の富裕層旅行者が存在するという。一般的に富裕層といえば、航空機のビジネスクラスを利用しデラックスホテルに滞在、高級レストランで食事をするような人たちをイメージするが、これは「クラシックラグジュアリー層」と呼ばれる50~60代を中心とした従来型の富裕層だ。
一方「モダンラグジュアリー層」と呼ばれる新しい富裕層も出現し、この層がいま存在感を増している。彼らは「本物」であること、一生に一度、サステナビリティー、起源の探求など、自分自身にとっての意義ある体験を重視し異文化への関心も高い。移動には時に格安航空を使うが、その土地ならではの体験やガイドの費用には数十万円を消費するという旅行者で、一般旅行者の約9倍もの観光消費があるといわれている。この層は30~40代のいわゆるミレニアル世代に多く、世界的にも増加傾向にある。「30代で富裕層?」と思うかもしれないが、所有資産に関係なく好きなものや価値を感じるものには多くを消費し、価値を感じないものは最低限の消費しかしない人たちでもあり、一つ下のZ世代も同様の価値観を持つといわれる。
こうしたモダンラグジュアリー層の価値観に合った観光資源が存在するのが実は都市より地方だ。地方の豊かな自然や文化には地域の独自性、そこにしかない「本物」の要素がある。デラックスホテルや高級レストランは都市に優位だが、地方には歴史に根差した郷土の風習や精神、自然を背景とした食材やそれを生かす調理法などが残っており、サステナビリティーや起源の探求とも親和性が高い。日本人がいったん忘れそうになった地方の生活や自然が実はモダンラグジュアリー層に十分に訴求する高付加価値観光の原石なのだ。
地方の片田舎と富裕層、これまでは縁遠い関係に思われてきたが、新しい富裕層の出現によってその価値が再び高まっていくかもしれない。
(Kyodo Weekly・政経週報 2024年12月2日号掲載)
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