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注目!オンライン料理教室  野々村真希 農学博士  連載「口福の源」

2024.12.16

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注目!オンライン料理教室  野々村真希 農学博士  連載「口福の源」の写真

 オンラインの料理教室というものがある。Zoomなどのオンライン会議ツールを使って自宅のキッチンから参加し、画面の中の講師の指示に従いながら料理を作るという料理教室である。新型コロナウイルスの感染拡大によって対面でのイベントが開催しにくくなった頃からよく見られるようになったが、オンラインなので感染の心配がないというだけでなく、自宅から気軽に参加できるとか、従来の対面型の料理教室より低価格だとかいう利点もあるため人気が続いているようで、今や大盛況、無数のレッスンが開催されている。

 ところで、環境に配慮した行動、健康的な食事行動などの望ましい行動を人々が取ってくれるように働きかけを行うことを「介入」と呼ぶのだが、このオンライン料理教室が、家庭の食品ロス削減行動を促す介入と相性がよいのである。(画像:単なるポスター掲示では行動変容は起こせないかも?)

 そう考える理由の一つは、オンライン料理教室で参加者が取る一連の行動の中に、食品ロスに関わる行動がいくつも含まれているからである。オンライン料理教室では参加者はまず使う食材を集めるが、このタイミングでは、期限の近づいた残り食材をうまく活用する方法などを伝えることができるかもしれない。次に参加者は食材の分量を量るが、このタイミングでは適量調理の意識付けや、作り過ぎないコツを伝えることができる(「作り過ぎ」は食品ロスの主な原因の一つとされている)。また参加者が食材の下ごしらえをする時には、野菜の皮やヘタなどの可食部を無駄にしない下処理方法を伝えられる。完成した料理をすぐ食べ切れない場合は保存するが、その際には適切な保存方法や冷凍保存の活用などを伝えることが可能である。介入に関しては、変わってほしい行動が生じるその瞬間に働きかけを行うことが効果的だといわれるが(例えば、朝のゴミ出しを忘れないようにリマインドの貼り紙をするとしたら、家を出発する直前に目に入る玄関ドアの内側に貼るのがいいだろう)、オンライン料理教室では参加者はリアルタイムで講師の指示のもと作業するので、いくつもの行動についてそれが可能になる。

 従来の対面型の料理教室と違って、参加者は自分一人で自宅の使い慣れた設備、器具で作ることができるというのも、オンラインのいいところである。ちなみに私自身実際にオンライン料理教室を介入実験として実施したことがあり、そこでは参加者の食品ロス削減の行動の促進がしっかり確認された。

 日本の食品ロスの半分は家庭由来であり、年間240万トン、鶏肉の国内流通量と同じくらいの食品が家庭で捨てられている。これらを減らすには、オンライン料理教室のように、人々にジャストタイミングで食品ロス削減を働きかけられるポテンシャルのある世の活動・事象を見つけ、その中に食品ロス削減の働きかけを組み込んでいく、ということが必要になるだろう。研究者や政府・自治体だけでそれを進めていくのは難しい。事業者、特に食や家事に関連する事業者の協力に大きな期待を寄せている。

(Kyodo Weekly・政経週報 2024年12月2日号掲載)

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