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愛とプライド、真のブランド  中川めぐみ ウオー代表取締役  連載「グリーン&ブルー」

2024.12.02

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愛とプライド、真のブランド  中川めぐみ ウオー代表取締役  連載「グリーン&ブルー」の写真

 "ヘソを曲げた頑固者"を意味する、高知の方言「どくれもん」。そんな言葉を由来にした「ど久礼(くれ)もん」という企業組合が存在する、面白い鰹(かつお)の町があると聞いて訪れたのは、高知県中土佐町の久礼。鰹が有名な高知の中でも"最高の鰹を食べるなら久礼"と太鼓判を押されている。ちなみに「ど久礼もん」は400年以上続く鰹文化」と「町の中核である久礼・大正町市場」を未来に繋(つな)ぐことを目的に、市場の店主ら4人がお金を出し合って2007年に創設したという。(写真はイメージ)

 それにしても自ら頑固者を冠する組合があるとは、いったいどんな町なのか。緊張気味に久礼へ訪れた筆者だったが、「ど久礼もん」をはじめ町の方々にお会いするたび、頑固さの根元にあるのは底知れない"愛"と"プライド"だと理解した。鰹の産地は他にもあるが、ここまで鰹にこだわり、親しみ、研鑽(けんさん)を積む町はないだろう。

 久礼の鰹は、日帰りの一本釣り漁で取られている。網での漁に比べると効率は落ちるが、魚体を痛めず鮮度を保つには一番だと頑固に守り続けている。そうした釣りたての鰹たちは毎朝6時30分に地元の市場に並べられ、町の魚屋さん、加工会社さんらによってすぐさま競り落とされていく。

 そしてここからが久礼の真骨頂。購入された鰹は各店ですぐに捌(さば)かれるのだが、その際に厳しい選別儀礼がある。目視や嗅ぎ分けに加え、なんと「触診」が入るのだ。プロが目利きした鰹は、状態が良いのは当たり前。その上で店主たちが"おいしくなさそうだ"と感じる鰹がどうしても1〜2割存在するらしく、そうした鰹を見分けるのに「触診」が有効だという。

 こうしてはじかれた"店主が味に満足できない鰹"は品質が良くても、刺し身やタタキ用として店頭に出されることはない(加工品などに活用)。お店に並ぶ鰹たちは全て、どくれもんな店主たちの厳しい選別を乗り越えた最高品ばかりなのだ。

 そして、久礼の飲食店やご家庭の方々は、自分好みの鰹を上手に見分けていく。筆者がお邪魔した居酒屋さんで、鰹の刺し身を頼んだ際、料理人さんに「おいしくなかったら、返金するよ」と言われた。こんなにも鰹に自信を持てるとは...!

 わが町の鰹、そしてそれに関わる漁師さんや魚屋さん、それら全てに信頼とプライドを持てている証しだと感動した。もちろん刺し身は最高においしくて、喜んでお支払いをさせていただいた。

 他にも久礼で鰹に関する感動はいくつもあったが、とてもこの原稿に書き切れない。とにかく出会う方がみな「久礼においしくない鰹は出回らない」と信じており、その持続・発展に向けて各々ができることに全力だった。これこそが真のブランドだ。お金があっても、見せ方をいくら工夫しても、それだけではかなわない。1次産業の未来への重要なヒントがここにあると、強く感じた旅だった。

(Kyodo Weekly・政経週報 2024年11月18日号掲載)

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