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〝親農〟石破政権の気の重い行方  小視曽四郎 農政ジャーナリスト  連載「グリーン&ブルー」

2024.12.09

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〝親農〟石破政権の気の重い行方  小視曽四郎 農政ジャーナリスト  連載「グリーン&ブルー」の写真

 弱り目にたたり目とはこういう時にいうのだろうか。5度目の挑戦で念願の党総裁に就任できたはいいが、衆院解散に打って出れば思わぬ少数与党転落。直後に海の向こうから同盟国だろうが何だろうが「自国第一主義」を掲げ、容赦ない要求の突き付けで定評のトランプ前大統領の復活劇が伝わってきた石破茂首相。野党が結束せず第2次石破政権は何とか発足したが、この間、思いっきり吹聴した農業へのテコ入れや地方創生への取り組みの先行きは極めて視界不良。見つめる農業現場からは「意外に骨のない男だったな...」と、はや肩透かしとの受け止めも。

 だが、内閣の布陣自体は期待をもたせた。首相、官房長官が農林水産相経験者。戦後の農相経験者の首相は福田赳夫、鈴木善幸、羽田孜の各氏に次ぐ。文部科学相や地方創生相も農水副大臣経験者で、防衛相も元党農林幹部。落選した農相の後任は農相経験者の党農林最高幹部の一人。党側の布陣も強い。幹事長は農相経験者で党農林最高幹部。政調会長もコメ対策などを担当した農林幹部。さらに国対委員長も岸田前内閣で農相を務めていた。

 当面の農政課題といえば改正食料・農業・農村基本法施行を受け、食料安全保障確立に向け初動5年間での農業立て直しへの集中対応。食料自給率・自給力向上に向けた各種目標を盛り込んだ基本計画や生産コストを反映した農産物の価格形成に関する法案提出などを次期通常国会に予定する。また、農水省は最近、経営体(農家や法人)が2030年には20年の108万から54万(50%)に激減し、コメ、麦、大豆の土地利用型作物で74万ヘクタール、その他露地野菜や果樹を含めると20年比で92万ヘクタール(35%)もの耕作が減る試算を公表した。耕作者確保が最重要課題に浮上している。本来ならこうした事態に対し、親農業派首相として自ら号令をかけ、集中対応が期待されていたが、衆院予算委員長ポストは野党にわたり、内閣不信任決議案提出の動きに怯(おび)えながらの指導力発揮は難しいだろう。

 だが、石破首相は国内政治ばかりに目を向けていられない。外交の基軸である米国のトランプ次期大統領への対応が迫る。トランプ氏は前政権時に全体の利益を重視する多国間交渉である環太平洋連携協定(TPP)交渉から離脱し、日本は19年、政治力が物を言う日米2国間の貿易協定の締結を余儀なくされた。協定では、当時の安倍晋三首相は大統領再選を目指すトランプ氏に過度に忖度(そんたく)して、「令和の不平等条約」(明治大学教授、作山巧氏)ともいわれる農業を中心に著しくバランスを欠いた譲歩をした。日本政府内にはその時の交渉がトラウマになっている人もいる。米国の農業従事者は元来、共和党支持者が多く、トランプ氏への期待も高い。石破首相ならずとも、日本に「悪夢の再来」となる要求が来ないことを祈る声は多いだろう。

(Kyodo Weekly・政経週報 2024年11月25日号掲載)

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