暮らす

岩石で分かる土地の成り立ち  藤波匠 日本総合研究所調査部上席主任研究員  連載「よんななエコノミー」

2024.12.09

ツイート

岩石で分かる土地の成り立ち  藤波匠 日本総合研究所調査部上席主任研究員  連載「よんななエコノミー」の写真

 筆者は年に数回登山します。とはいえ趣味と言えるほどではなく、家族に半ば強引に引っ張り出されているのが現状です。それでも行けば行ったで、素晴らしい眺望や新緑のまぶしさ、美しい紅葉、かわいらしい花々に心癒やされるわけで、行ってよかったと思うのが常です。

 山の楽しみ方は人それぞれで、眺望や高山植物を目当てに登られる方が多いと思います。この時期だと、紅葉目当てのハイカーが、名所と知られる山々に押し寄せています。

 もちろん一般的な見どころに惹(ひ)かれないわけではありませんが、私の興味の中心は、〝岩石〟です。登山中は、どちらかというと景色よりも、足元を見つめている時間の方が長くなります。登山道を歩きながら、「さっきまでと石の質が変わったぞ」などと考えているわけです。

 同好の士は決して多くはありませんが、最近は各地にジオパークが設置され、地質や岩石、土地の成り立ちに興味をもって山歩きを楽しむ人も増えてきているようです。ジオパークとは、地球や大地を意味するGeoと公園を意味するParkを組み合わせた造語です。ユネスコが認定する世界ジオパークが国内には10カ所、国内認定の日本ジオパークが47カ所、また登録を目指している地域もあり、ジオパークだらけと言っても過言ではありません。ジオパークには、地殻変動などのダイナミズムを体感できるモデルコースのほか、教育などの拠点となる施設も設置されており、関心の薄い人も楽しめる仕組みです。

 先日、日本ジオパークの一つ筑波山に登ってきました。茨城県に位置する筑波山は、関東平野にポツンとたたずむ独立峰の様相で、富士山のような火山をイメージする人が多いかもしれません。しかし、筑波山は火山ではなく、地中深くでマグマがゆっくりと冷えて固まった花崗(かこう)岩や斑(はん)れい岩が主体の山です。岩石の中では比重の軽い花崗岩が、地殻変動によってメリメリと押し上げられて山となりました。岩石が隆起してできた山では奇岩が織りなす景色を楽しむことができます。筑波山にも「弁慶七戻り」のようにユニークな名前の奇岩が多数点在しています。

 目を南西に転じてみると、富士山を取り巻くように、丹沢山地や御坂山地のような山々が林立しています。これらは富士山の外輪山のようにみえますが、実はそうではありません。南の海の底で形成された種々の岩石が地殻変動によって北へ移動し、日本列島まで来て押し上げられて山となったのです。富士山が形成される以前の話です。

 秩父の山々も丹沢と同じく海底で形作られた岩石が地表に現れたものです。セメント原料の石灰を産出する武甲山は、南の海で発達したサンゴ礁が深い海の底で圧力をかけられて岩石となり、あの地まで運ばれ、押し上げられたものです。

 ちなみに、地表に露出した花崗岩は風化しやすく、サラサラの真砂(まさ)と呼ばれる砂となり、西日本などでたびたび土砂崩れを起こし、人的被害を生じます。時には自ら暮らす土地の成り立ちを知るため、自宅周辺の山々を、岩石に関心を寄せて散策してみてはいかがでしょうか。

(Kyodo Weekly・政経週報 2024年11月25日号掲載)

最新記事