大災害多発への農家対策 小視曽四郎 農政ジャーナリスト 連載「グリーン&ブルー」
2024.11.04
温暖化の進行で農家には夏は鬼門の季節かもしれない。猛暑もさることながら線状降水帯発生による集中豪雨、勢力の強まる台風の度重なる襲来は、時に被災農家から再び立ち上がる気力を奪う。7月末、山形県庄内、最上地方や秋田県南部を襲った線状降水帯発生による1時間86ミリ(山形県酒田市)など記録破りの集中豪雨は水稲やスイカなど豊かな農業地帯を直撃。山形県だけでつや姫などの米や名産のだだちゃ豆など1万1千ヘクタールで冠水、土砂が流入した。被害額は100億円以上。秋田県と合わせれば農林関係で約150億円程度の被害。出穂( しゅっすい)直後の4ヘクタールの全ての水田が数日冠水した66歳の農家は「もう農業をやめるしかない」と嘆いた。
9月下旬、元日に最大震度7の大地震に見舞われたばかりの能登地方北部に線状降水帯が発生。輪島市では1時間に最多記録の2倍近い121ミリを記録、珠洲市で同じく85ミリの記録的豪雨に。程なく20以上の河川は氾濫し、人家や復旧半ばの農地や畜舎、ため池などを濁流が襲い、道路は寸断、100を超す集落が孤立。先の大地震の死者412人(うち災害関連死185人、10月9日時点)に次ぐ犠牲者を出す大災害に。珠洲、輪島など北部2市2町で950ヘクタールの農地が冠水し、うち150ヘクタールで被害が確認された。元日の被害から何とか耕作にこぎつけた農家は収穫直前だったが、「何でまた(大雨が)」「心が折れる」「地震よりひどい」などの声が漏れたという。地元では2023年5月の震度6強の地震被害で負債を抱えた農家もあり、「3重の被災」との声も。「JAのと」の藤田繁信組合長は「農業の復興が能登の復興に直結する」と農家を懸命に励ます。
元来、自然災害が多く発生する日本は近年、気候変動とともにさらに大災害に見舞われるケースが目立つ。その度に農業、農村は集落の消滅や離農、離村、耕作放棄地の拡大などの危機に直面する。離農などは農業生産基盤や地域社会の縮小につながり、水や食料はじめ地方に依存する都市生活にも直結する。災害対策は防災はもとより、被災した地域や人々をいかに迅速に復旧、復興させるか、また、失意の農家に再度の立ち直りの勇気を呼び戻せるか、が大事だ。農家は激甚災害指定で、水田の土砂は取り除かれても、新たな農業機械や施設の導入で借金ができる。
これからはそんなハンデを負わせずに再スタートさせることはできないか。新たな食料・農業・農村基本法第40条には農業災害で「農業経営の安定を図るため、災害による損失の合理的な補塡...」が小さく盛られている。自然災害は本来、農業にとって大きなリスクであり、温暖化による大災害多発への対応は食料安全保障の重点施策にすべきだった。しかし、この際、早急に政府や地方自治体だけでなく、民間の知恵を集めて対策を検討すべきだ。でないと夏を迎えるのが怖い。
(Kyodo Weekly・政経週報 2024年10月21日号掲載)
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