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地球を救うスーパーな貝  中川めぐみ ウオー代表取締役  連載「グリーン&ブルー」

2024.10.28

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地球を救うスーパーな貝  中川めぐみ ウオー代表取締役  連載「グリーン&ブルー」の写真

 「月日貝(ツキヒガイ)は、地球を救うんですよ」

 美しい夕日を背に力強く語ってくださったのは、鹿児島県日置市の漁師、佐々祐一(さっさ・ゆういち)さん。都内の大手経営コンサルティング企業で働いていたが、幼少期からの憧れだった漁師になるため8年前にIターン移住した。

 「都会では働きづめだったから、移住後は漁業に励みながらものんびり暮らそう」...と思い描いていたのに、相変わらず休みなく働いている理由は、月日貝に出会いその虜(とりこ)になってしまったからだ。

 月日貝は、殻の表が"太陽"のように赤く、裏が"月"のように白い見た目からその名が付いた。裏側は鮮やかな黄色で縁取られ、満月が輝くようだ。日置市など限られた地域で生息するが、他の水産物と同様にその数は減少している。そんな美しく希少な月日貝だが、実はとてもストロングだ。

 まず甘み・うまみが強くて食感も良く、味付けせずに殻ごと焼いただけで驚くほどおいしい。佐々さんのおすすめは天ぷら。サクサクの衣に包まれた濃密な身質の貝柱は、噛(か)むほどうまみが湧き出して絶品らしい。

 次に、高タンパク質・低脂質と現代人に嬉(うれ)しい栄養構成でできている。特に注目なのはタンパク質の豊富さで、2〜3枚で成人1食分の必要量を摂取できるという。

 さらにすごいのが、その環境負荷の低さと成長速度だ。なんと海中の植物プランクトンなどを摂取することで、わずか1年間で食べごろに成長(ホタテは2〜3年間)してくれる。

 成長過程での温室効果ガス発生が課題とされる畜産などに比べて環境負荷が低く、成長速度が早くて、栄養価が高く、しかもおいしい。「地球を救う」の言葉にも納得だ。

 佐々さんは、この月日貝の生産量と認知度を高めることで、地域や若者の未来を明るく切り開こうと奮闘している。4年前に地域の若手漁師たちと「吹上浜の未来を考える漁業者たち」という団体をつくり、漁業の魅力を伝えるイベントなどを行ったことで、地域内外から漁師になりたい若者たちが訪れるようになった。しかし現状では彼らがじゅうぶんに稼げる体制が整っておらず、地域漁業を持続可能にできないことが課題だ。

 そこで月日貝を新たな稼ぎの要にしようと、生産量を増やすべく自治体や研究機関と協力・連携し、完全養殖化を目指している。試作段階の養殖施設は魚礁の役割も果たし、魚たちも集まってきた。さらには月日貝の魅力を発信しながら、漁師と多様な人々が交流できる基地を目指して、今年9月に「ツキヒテラス」という浜焼きBBQ施設をオープンした。筆者が佐々さんにお会いしたのもツキヒテラスだが、美しい海と夕日を見ながら、獲れたての月日貝などを食べられるのは最高としか言いようがない。佐々さんの熱い想(おも)いと月日貝、ぜひツキヒテラスを訪れて味わっていただきたい。

(Kyodo Weekly・政経週報 2024年10月14日号掲載)

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