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農政への影響は限定的 総選挙で与党過半数割れ アグリラボ編集長コラム

2024.10.28

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 1027日投開票の衆院選は、自民、公明両党の与党が計215議席にとどまり過半数(233)を割り込んだ。政権運営は混迷を極めている。特別国会での首相指名選挙が最大の焦点となるが、自民党が下野しない限り農業政策への影響は限定的だ。

 石破茂内閣は、首相と林芳正官房長官が農相を経験しているだけでなく、農林水産副大臣の経験者2人が入閣するなど、農村部に対して「手厚い体制」(石破首相)で衆院選に臨んだ。しかし、現職の小里泰弘農相が落選し、北海道では、小選挙区と比例代表を合わせた20議席のうち6議席しか得られず、第1党を立憲民主党(12議席)に奪われた。

 新潟の5小選挙区で全敗するなど農村票の比重が大きい選挙区でも大敗し、自民党の総合農林政策調査会最高顧問として農林議員のトップである森山裕幹事長に対する責任論も出ている。しかし、自民党が下野しない限り、改正されたばかりの食料・農業・農村基本法を基軸にした農業政策の大きな転換はないだろう。

 むしろ政権が不安定化するほど、農業協同組合(JA)など強固な支持基盤を持つ「族」と呼ばれる議員集団の結束は強まる。来年夏に参院選を控え、この傾向は加速している。さらに派閥の解消によって、議員集団の求心力は「族」に向かっている。この「族」こそ、企業・団体や省庁と結び付き、政策に大きな影響を与えてきた。この構造が根本的に変わらない限り、農業に限らず政策の変更は限定的だ。

 確かに、与党の過半数割れで個別の政策ごとに政党間の政策協議が必要になる局面が増えるだろう。しかし、この繊細な調整ができる人材は限られている。森山幹事長は、国会対策委員長の時に「腹を割って話せる数少ない相手」(立民党の安住淳国対委員長=当時)と評されるほど野党との信頼関係を築いた。選挙対策委員長の時は、利害関係が複雑な衆院小選挙区の「1010減」に伴う区割り調整に当たった。

 幹事長としての衆院選敗北の責任論は別として、政策面での森山幹事長の影響力は低下しない。むしろ政権運営が不安定になるほど調整役としての「出番」が増えるだろう。ただ、こうした倒錯した力関係が持続可能だとは思えない。個別の政策協議以前に、与党に求められているのは政策決定を含むガバナンス(党内統治)の見直しだ。その根幹が企業・団体献金であることは言うまでもない。(共同通信アグリラボ編集長 石井勇人)

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