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農福連携の成功のカギは地域密着  青山浩子 新潟食料農業大学准教授  連載「グリーン&ブルー」

2024.10.21

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農福連携の成功のカギは地域密着  青山浩子 新潟食料農業大学准教授  連載「グリーン&ブルー」の写真

 なごみの水耕(新潟県燕市)では、障がいを持つ36人がレタス類やバジル、にんにくスプラウトを水耕で栽培している。ここは障がいを持つ人が就労のための訓練をする就労継続支援B型事業所だ。介護事業を営む株式会社なごみの本間俊明社長が、兼業農家としての経験をいかし、2021年に立ち上げた。(写真はイメージ)

 「気を配ったことは"働きやすい環境づくり"」と本間社長。屋外での暑さや寒さを極力緩和し、働きやすい環境を整えようと、完全室内型の水耕栽培を開始した。24年から新たに、露地の有機野菜づくりも始めた。「土いじりでモチベーションが上がるのは人間のDNAによるものかもしれない」「水耕、露地を問わず、やりがいを感じる農業にチャレンジしています」と語る。目下、露地野菜では有機栽培に挑戦中だ。

 なごみの水耕の活動の最大の特徴は、地域住民との関わりが多い点だ。首都圏での需要が多いバジルのみ関東に出荷するが、その他は燕市内の小売店や直売所、道の駅、飲食店などで販売する。出荷や販売にも、利用者たちは関わっている。出荷時に職員と共に品物の引き渡しを行ったり、直売所やマルシェでの販売にも立ち会ったりする。市内の小学校の児童の施設見学も積極的に受け入れている。にんにくスプラウトの作業場を見学してもらいながら、「規格から外れるようなにんにくをどう活用すればいいか」と投げかけ、児童たちからアイデアを募ることもある。児童と利用者が一つの教室に集うわけだ。

 農福連携に関し、筆者も講義のテーマにしている。講義を聞いた学生の多くが「小学校の頃は、障がいを持つ友人と当たり前に一緒に授業を受けていたが、大人になるにつれそういう場面がなくなった」「関わる機会が増えることが、相互に必要」と感想を話していた。なごみの取り組みは、学生たちの意見と見事に重なる。

 なごみの水耕の渡邊和典施設長によると「地域の人たちとふれあうことで、利用者さんの笑顔が増えたようです」と話す。週2回程度だった通所回数が増えたという利用者もいる。ここでのトレーニングを経て、一般企業に就労を果たした元利用者も5人いるそうだ。

 なごみの水耕の取り組みは、働きやすい農業の環境整備の重要性、そして地域が、障がいの有無を超えて交流する機会を提供する単位になり得ることを示している。新潟県によると、同県内で農福連携に取り組む農業経営体は175件まで増えた。なごみの水耕は、令和6年度新潟県優良農業経営体等表彰事業の農福連携の部で知事賞に輝いた。

(Kyodo Weekly・政経週報 2024年10月7日号掲載)

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