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インドネシアの24年コメ自給率、近年最低へ 政権のアキレス腱、増産計画鍵に  NNA

2024.10.31

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インドネシアの24年コメ自給率、近年最低へ 政権のアキレス腱、増産計画鍵に  NNAの写真

 インドネシアの2024年のコメ自給率が近年の最低を更新する見通しであることが分かった。NNAが中央統計局のデータを分析した結果、自給率はもみ米で94.5%、精米で90.9%以下となるもようだ。昨年来のエルニーニョ現象が生産に影響したが、農業専門家は来年の生産は上向くと予測する。自給率が低下する中、プラボウォ・スビアント大統領は任期中の食料自給の達成を目指す。コメ価格は政権支持率にもつながるため、新政権はコメの増産を急ぐ構えだが計画中の大規模水田開発の効果に農業関係者は懐疑的だ。(写真:インドネシアで20日に就任したプラボウォ大統領は5年以内の食料自給達成を掲げるが、足元では2024年のコメ自給率が近年で最低となる見通しだ=24年3月、ジョクジャカルタ特別州、NNA撮影)

 中央統計局が10月15日に発表した24年のコメ生産量見通しはもみ米が前年比2.45%減の5266万トン、精米は同2.43%減の3034万トンだった。米どころの東ジャワ州、中ジャワ州、西ジャワ州で、もみ米と精米が4.99%、2.80%、6.84%それぞれ減少する見込み。3州の生産量は国全体の5割を占めている。

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 昨年発生したエルニーニョ現象に伴う少雨・干ばつの影響による作付けの遅れや発育不良で、最大の収穫期となる25月の収穫量が減った。これに対しジョコ・ウィドド前政権は生産量不足を補うため輸入を増やしてきた。

 中央統計局によると、18月のコメ輸入量は前年同期比91.9%増の305万トンだった。NNAが計算した18月のコメ自給率は、もみ米ベースで92.6%、精米ベースで87.8%だった。8月までのコメ輸出入量を基にNNAが算出した通年の自給率は、もみ米が最大94.5%、精米が同90.9%となり、それぞれ20年以降で最低だった前年の94.6%、91.0%を下回る見込みだ。

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 24年の水稲収穫面積は前年比1.6%減の1005万ヘクタールと、2年連続で減少する見通しだ。1ヘクタール当たりのもみ米収穫量は19年以降右肩上がりで増えてきたが、24年は5.24トンと前年から0.05トン減少する見込み。

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 東ジャワ、中ジャワ、ジョクジャカルタ特別州で、稲作農家を支援するスタートアップ企業アグリスパルタ・インドネシアのガラン最高経営責任者(CEO)は来年の作付け見通しについて、NNAに「今年のエルニーニョ現象は昨年ほど厳しくなかったため状態は良くなる。今年初めのようなコメ不足や価格の高騰は起きないだろう」と話した。

 国家食料庁によると、今年の中級米の小売価格は3月に前年同月比21.3%増の1キログラム当たり1万6410ルピア(約160円)まで上昇した。供給量が増えた5月以降の価格は安定しているが、1~10月の平均上昇率(前年同月比)は13.9%となっている。

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 ■食料担当調整省設置も前途多難か


 一方20日に新大統領に就いたプラボウォ氏は就任演説で「45年後には食料自給を達成できると信じている」と任期中のコメ自給の実現を楽観した。食料安全保障を重要政策に位置付けるプラボウォ政権は各省を束ねる調整省に食料担当を新設し、前政権で貿易相を務めたズルキフリ・ハサン氏を担当大臣に充てた。

 22日付ジャカルタ・ポストによると、ズルキフリ氏は就任後に5年でパプア地域に200万ヘクタールの水田を開発すると述べた。またロイター通信は同日、前政権から留任したアンディ・アムラン・スライマン農業相が25年に75万~100万ヘクタールの水田を整備する方針を示し、政府はスマトラ、カリマンタン、パプア地域での農地開発を検討していると伝えた。

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 農業省は国営企業省とも連携して農地開発を進める。アンタラ通信が22日伝えたところによれば、エリック・トヒル国営企業相が同日、食糧調達公社(Bulog)と国営肥料ププック・インドネシアに農業省への支援を要請し、国営農園持ち株会社プルクブナン・ヌサンタラ(PTPN3には水田開発のための土地を割り当てるよう求めた。

 プラボウォ氏は2月の大統領選挙の公約で、食料自給達成のためにコメ、トウモロコシ、キャッサバ、大豆、サトウキビを対象とした大規模農産地「フードエステート」を開発し、29年までに収穫面積を400万ヘクタール以上増やす方針を掲げていた。

 ■企業を利する開発を監視


 プラボウォ政権が食料自給率の向上を目指す背景には、コメの流通価格の安定化が政権基盤の維持につながることも一因とみられる。2期10年間の任期中の支持率が総じて高かったジョコ政権下でも、食品価格の高騰時には支持率の低下を招いており、プラボウォ政権にとってもコメの安定生産と価格抑制がアキレス腱(けん)となる。

 一方カリマンタン島やパプア地域で開発するフードエステートにより自給率向上を図る政策には懐疑的な見方が強い。

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 アグリスパルタのガラン氏は、インドネシアが輸入している年約300万トンのコメは50万ヘクタール程度の水田の収穫量に相当すると指摘。だがそれ以上の大規模な水田開発計画が協議されているため「注視する必要がある」と述べた。その上でガラン氏は「食料安全保障の確保に向けた熱意が企業に利用され、環境を犠牲にしないようにする必要がある」と強調した。同氏は自給達成向け既存の水田の生産性向上に余地があると主張してきた。

 また小規模農家を支援する国際NPOGRAIN」のカルティニ氏(アジアプログラム調整担当)も、これまでにパプア地域の主食はコメではなくサゴヤシから採れるでんぷんのため、稲作文化がなくコメ生産に向いていないと指摘してきた。サゴヤシが生育する森林を水田に変えるのはパプアの人のためにならないとしている。(NNA)

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