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超党派農政はありうるか 政策協議に期待 アグリラボ編集長コラム

2024.11.11

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 11月11日に招集された特別国会の首相指名選挙で自民党の石破茂総裁が選出され、第2次石破内閣が発足した。与党は個々の政策について野党と協議して政権の運営を図る。

 当面、不安定な状況が続くが、より民意に近い政策を形成するための好機でもある。与野党、あるいは野党間で政策協議を繰り返し、国会で論争を深めることができれば、これまでのように過半数を握る与党が「数の力」で押し切るのと比べれば、ずっと望ましい。

 特に本来、「国の基(もとい)」である農業については、右も左もなく党派を超えて合意を形成するべきだ。実際に、衆院選で農業を軽視する党は一つもなかった。具体策は異なっても理念の面で深刻な対立があるわけではない。選挙対策などの事情で歩み寄れず、いわば「同床異夢」ならぬ「異床同夢」だ。

 与野党とも、政権争奪の決戦場として来年夏の参院選を位置付けている。地方の1人区が勝敗の鍵を握るため、農村での選挙対策を強化する必要があり、与党は5月に「数の力」で改正食料・農業・農村基本法を成立させた。日本維新の会の提案で政府案を1カ所微修正しただけで、野党が求めた修正協議には応じず、法案の一本化を見送った。

 政府・与党は、改正基本法を踏まえて、おおむね5年ごとの中期指針である基本計画の策定に着手、法案ではないため国会の審議や承認を必要としない。当初の5年間を「農業構造転換集中対策期間」と位置付け、生産性を向上させるため農地の集積・集約や基盤整備を重視する方針だ。農業関係予算の増額・配分を含め、野党が農政に立ち入る隙を与えないという思惑を強く感じる。

 これに対して、衆院選挙で立憲民主党は、かつての農業者戸別所得補償制度を拡充した「新たな直接支払制度」の創設、国民民主党は「食料安全保障基礎支払い」などを公約に掲げ、直接支払いに力点を置いて「多様な担い手」を支える農政を求めた。このままでは、参院選に向けて農政が争点となり対立が先鋭化する恐れがある。

 しかし、石破首相の発言や、野党の公約を並べてみると、憲法改正や夫婦別姓、消費税減税などと比べると、理念はもちろん、具体策でも相互の違いが比較的小さいことが分かる。

 石破首相は、自民党総裁選の最中、米の生産調整を批判し、増産で米価が下落する場合は「その分はやはり、直接所得補償みたいな形でやっていかなければならない」と述べ、財源として約3500億円の転作助成金の活用に言及した。

 現行の日本型直接制度のうち、環境保全型農業直接支払いを改造すれば、野党案と折衷した制度設計は可能だ。重要なことは、農業政策を「政争の具」にしないことだ。ハードルは高いが、所得税減税だけでなく、農業政策についても与野党の政策協議を急ぎ、挙党態勢で幅の広い支持を得た基本計画を策定してほしい。

 2007年~12年に、2度の政権交代を挟んで農業政策が大きく揺れ動き、生産現場を混乱させた苦い経験を繰り返してはならない。(共同通信アグリラボ編集長 石井勇人)

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