サケの未来は 佐々木ひろこ フードジャーナリスト 連載「グリーン&ブルー」
2024.11.11
「サケについてもっと知りたい」。長くそう思っていたところ、シロザケ(以下サケ)の遡上(そじょう)が本格化する10月初旬、北海道東部の網走漁業協同組合を訪ねる機会をいただいた。(写真:網を巾着状に手繰り寄せ、中心に集めたサケを、小さい網ですくい漁倉に流し込む。見事なチームプレーだ)
世界有数の漁場、オホーツク海に面した網走漁協の漁業生産額は年間120億円(2023年)。ホタテガイとともに事業の柱であるサケの水揚げ量も、全国で1、2を争う有力漁協だ。
女満別(めまんべつ)空港から車で北へ30分。色づき始めた山々を背景に広大な農地を抜け、南北に長い網走湖、そしてその先の網走川に沿って下れば北の海が広がる。
翌朝、定置網漁船に乗せていただいた。出港は深夜2時。網の設置場所を船で順に巡り、10人ほどが力を合わせて網の端をたぐり寄せる。最後にクレーンを使って引き揚げ、中に入ったたくさんのサケを、一気に、かつなめらかな動きで漁倉に流し込む様子は圧巻だ。
さて、日本のサケ漁業は、人工孵化(ふか)・放流した稚魚が3〜5年後に母川回帰するのを待って漁獲する方法が中心だ。孵化放流は明治時代に始まり、1951年に制定された「水産資源保護法」でも国を挙げて推進した。60年代後半に年間500万尾だったサケの来遊数は、90年に6千万尾を超える。だがその後、2004年をピークに減少に転じ、近年は2千万尾程度と低迷を続けている。
そんな中、ここ網走が属するオホーツク海区(宗谷岬〜知床岬)だけは、他地域と様相が異なる。北海道全体の回帰率が2・2%なのに対し、オホーツク海区は5・6%。5年間の道内累計サケ漁獲量5万8千トンのうち、オホーツク海区は4万3千トンを占めている。
サケ回帰の減少理由に関しては、国立研究開発法人水産研究・教育機構や北海道立総合研究機構、地元のさけ・ます増殖事業協会などで議論がされているが、いまだはっきりとした結論は出ていない。水温上昇など海洋環境の変化は明らかな前提で、それ以外の可能性も含め研究が進んでいる。これまでは川に上るサケを原則全て捕獲・採卵していたところ、わずかずつながら、自然産卵させるサケを残す試みもなされている。
温暖化の進行が今後も確実な中、サケの未来はどうなるのか。今年はさらにいくつかのサケ産地を巡り、学びを深めたいと思っている。
(Kyodo Weekly・政経週報 2024年10月28日号掲載)
最新記事
-
米大統領選、トランプ氏圧勝 週間ニュースダイジェスト(11月3日~1...
▼2地域居住、官民で促進 連携強化へ新組織(11月4日) 都市と地方に生活拠...
-
超党派農政はありうるか 政策協議に期待 アグリラボ編集長コラム
11月11日に招集された特別国会の首相指名選挙で自民党の石破茂総裁が選出され、...
-
サケの未来は 佐々木ひろこ フードジャーナリスト 連載「グリーン&...
「サケについてもっと知りたい」。長くそう思っていたところ、シロザケ(以下サケ)...
-
Z世代の力 森下晶美 東洋大学国際観光学部教授 連載「よんななエ...
今年9月、東京ビッグサイトにおいて「ツーリズムEXPOジャパン2024」が開催...
-
フードテック考 鬼頭弥生 農学博士 連載「口福の源」
持続可能な食料の生産・流通・消費を目指す方向性の中で、「フードテック」としてさ...
-
自公大敗、過半数割れ 週間ニュースダイジェスト(10月27日~11月...
▼自公大敗、過半数割れ 立民躍進 第50回衆院選(10月27日) 第50回衆...
-
宮崎空港の不発弾爆発に思う 藤波匠 日本総合研究所調査部上席主任研究...
10月2日、宮崎ブーゲンビリア空港の誘導路において、太平洋戦争中に米軍が投下し...
-
大災害多発への農家対策 小視曽四郎 農政ジャーナリスト 連載「グリ...
温暖化の進行で農家には夏は鬼門の季節かもしれない。猛暑もさることながら線状降水...
-
インドネシアの24年コメ自給率、近年最低へ 政権のアキレス腱、増産計画...
インドネシアの2024年のコメ自給率が近年の最低を更新する見通しであることが分...
-
日本の24年成長率0.3% 週間ニュースダイジェスト(10月20日~...
▼日本の24年成長率0.3% IMF見通し、下方修正(10月22日) 国際通...