"とりあえず"の予約とキャンセル 森下晶美 東洋大学国際観光学部教授 連載「よんななエコノミー」
2024.10.07
楽しみに予約した旅行も時に行けなくなることがある。大事な予定が入ってしまった、病気やケガをしたなど、不測の事態はいつでも起き得るため、こうした際は仕方なくキャンセルすることになる。
ところが最近、旅行予約(特に宿泊予約)において、キャンセルに対する感覚が変わってきている。「旅行予約サービスに関する調査」(MMD研究所/2022年)によれば、旅行予約後にキャンセルした経験のある人は全体の半数近く47.1%にも及んでおり、不測の事態で行けなくなったと考えるには多すぎる数だ。この内訳を予約方法別で見てみると、オンライン50.3%、電話・ファクス44.1%、店頭35.4%となっており、オンラインで予約したものが最もキャンセル率が高いという結果となった。キャンセルする時期も7割以上はキャンセル料発生以前に行われており、とりあえずネットで押さえ(予約し)て、いらなければリリース(キャンセル)するというのが今どきの旅行予約の感覚のようだ。特に、個人の宿泊予約は利用前日までキャンセル料がかからないことが多いためこうした傾向が強く、中には複数のホテルを"とりあえず"押さえてから検討するという旅行者もいる。
これに比例するように、インターネットを利用した旅行トラブルの件数も21年から22年で約2倍に増えており(独立行政法人国民生活センター調べ)、中でもキャンセル料に関連するものが目立つ。旅行に関するキャンセルの条件や費用は利用する施設や機関、申し込み形態によりさまざまだが、それを旅行者が十分に確認しないケースも多いこと、コロナ禍を契機にネット利用者が拡大しオンライン予約の取引件数そのものが増えたことなどが大きな要因だ。
トラブルを防ぐには、旅行者が条件をきちんと確認してから予約するというのはもちろんだが、一方で"とりあえず"押さえるという行為の見直しも必要だ。とりあえず予約は、他の利用者の予約を取りにくくする状況を招き、直前のキャンセルとなれば運営者はビジネスチャンスを失うことになる。"とりあえず"の気軽な気持ちが他者への迷惑行為になることも多い。
オンラインは便利さとともに人を介さない気軽さも魅力だが、旅行予約は一つの契約行為でもあり、そのタップやクリック、一定の慎重さも必要ではないだろうか。
(Kyodo Weekly・政経週報 2024年9月23日号掲載)
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