ホタテの実力 佐々木ひろこ フードジャーナリスト 連載「グリーン&ブルー」
2024.10.07

東京電力福島第1原発のALPS(多核種除去設備)処理水の海洋放出に伴い、中国が日本産水産物の全面禁輸を発表したのは2023年8月。この禁輸措置の影響を最も強く受けたのが、ホタテ貝だ。それまでの最大の販売先が突然消えたことで、大打撃を受けた生産者のことを思うと言葉がない。だが、一方で、私たちチームはこれを、国内のホタテ貝消費を伸ばす契機にすべきだと考えてきた。(写真:進行中の「北海道ほたて」PRプロジェクトで、室田拓人シェフが開発したホタテパイ。アオサ入りベシャメルソースとホタテをパイで包んだ)
農林水産省の漁業・養殖業生産統計によると、日本のホタテ貝生産は2000年以降、漁業(天然)と養殖業を合わせて年間50万トン前後。あまり知られていないが、ホタテ貝は23年時点で、年間70万トンを産するマイワシに次ぎ、国内2番目に多く生産している水産物だ。生産量が減少の一途、もしくは低位のまま停滞している水産物が多い日本にあって、高位生産が長く続くホタテ貝は"スーパー優等生"。国内需要を100%カバーでき、さらにまだ増やせる数少ない水産物と言っていい。
また、二枚貝は海中の植物性プランクトンを食べて育つため、養殖生産の際も給餌の必要がなく、魚類養殖に比べてコストや環境負荷が抑えられることも大きな強みだ。北海道漁業協同組合連合会によるホタテ貝漁業は13年、環境への配慮と水産資源の持続可能な利用を実現した漁業に与えられる国際エコ認証、MSC認証を取得している。
11年以降、ホタテ貝の輸出量は飛躍的に増加し、22年は12万8千トン。輸出額も910億円と日本の水産物中で首位であり、中でも中国への原貝輸出(現地で殻むき・貝柱加工しアメリカなど第三国への販売が中心)が多くを占めてきた。
しかし、今回の禁輸措置で明らかなように、貿易は国際的な政治経済、社会情勢の変化に大きく左右される。さらに今後世界の人口爆発に伴い、地球規模の食料争奪戦が起こる可能性が高い中、現在まだ豊かなホタテ貝の生産・供給体制をこの先、堅持するためにも、国内市場の拡大が重要ではないだろうか。
何より、ホタテ貝は老若男女みんなが大好きなシーフードだ。生でも、焼いても、干してもいい。おいしくてサステナブル(持続可能)なこの貝を、国内でもっと楽しまなくてはもったいない。より多くのホタテ料理が日本の食卓に並ぶ日のために、どんなアクションを仕掛ければいいか、チームのシェフたちと楽しく議論を重ねている。
(Kyodo Weekly・政経週報 2024年9月23日号掲載)
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