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〝令和の米騒動〟が示すもの  小視曽四郎 農政ジャーナリスト  連載「グリーン&ブルー」

2024.09.30

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〝令和の米騒動〟が示すもの  小視曽四郎 農政ジャーナリスト  連載「グリーン&ブルー」の写真

 春先からの米穀店での欠品騒ぎがいつの間にか本物の騒動になってしまった。スーパーで時に特売品だった米が暴騰し(8月東京都区部消費者物価指数で米類は前年同月比26・3%上昇)、店先から忽然(こつぜん)と消えたとなれば当然だろう。先に改正基本法で国民に合理的価格と安定供給を約束した食料安保の理念が早くもピンチか。(写真はイメージ)

 その原因は基本的には農林水産省が米需給への関与から撤退し、市場論理に任せた流通だろう。政府は2018年、米の生産調整から手を引き、唯一、需給見通しを示し、これを参考に各県が自由に話し合い、それぞれ生産面積、生産量の「目安」を独自に決め、できる限り需給が均衡するよう努力させてきた。需給が安定すれば相対価格は高めとなり農家などの経営は安定する。しかし、稲作は年ごとに作柄に変動があり、消費は減退傾向なため、ある年は相対価格が1万6千円台(60キロ)、ある年は1万1千円台とコストを大幅に下回る時がある。各県のJAや自治体ではできる限り価格の下落を避けるよう、余裕のない作付けをしている。しかし、ここに見通しを誤らせる〝罠〟がある。

 罠の元はズバリ、気候変動プラスα。平成の米騒動はフィリピン・ピナツボ火山大噴火後の1993年に起きた大冷害が主因だが、同時に作付け品種がササニシキなど冷害に弱い人気品種への偏りがあったのも一因。今回も昨年の猛暑という気候変動に、予想外のインバウンド需要などが重なった。農水省は昨年、需給均衡への適正生産量を669万トンとしていたが、猛暑で最終的には作況101の平年並み、661万トンで確定。適正生産量を8万トンも下回った。また、猛暑による等級低下で精米時の歩留まりが低下し、予想外に玄米量が必要になり、玄米需要は5万〜9万トン増えたという。

 米消費は人口減少などで毎年10万トン程度減る、が政府を含めた業界内の「常識」。この例からすると今年6月時点の主食用米需要量は682万トンになるはずが実際には減らず、前年同期より11万トン多い702万トンに大幅に増えた。優秀な官僚が計算し尽くしても時折、気象の動きは簡単に予測を狂わせる。

 8月には南海トラフ地震臨時情報が出た8日から台風7号が関東に接近した16日までのあたりには産直サイトの取り扱いは10倍にも急増、消費者の不安心理が明るみに。しかし、坂本哲志農相は「米需給は逼迫(ひっぱく)していない」などと木で鼻をくくったような硬直的態度に終始。逆に政府への不信を高めた。

 農水省は食糧部会を急きょ開き、中長期的な米の生産、消費動向の議論を開始した。会合では早速将来、米騒動どころか「米の自給ができない事態」の可能性が指摘され、米をめぐる事態の深刻さが浮き彫りに。気候変動による人類が経験したことがない温暖化や生産基盤の弱体化の中、国民挙げての議論が必要な時が来ているようだ。

(Kyodo Weekly・政経週報 2024年9月16日号掲載)

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