頼もしい未来の畜産農家 青山浩子 新潟食料農業大学准教授 連載「グリーン&ブルー」
2024.09.16
畜産を学ぶ高校生が今年も海外から多くを学んだ。農業者間の国際交流を担う組織、公益社団法人国際農業者交流協会が、畜産を担う人材育成を目的に、日本中央競馬会の事業を活用し、農業高校生を海外に送り出している。2024年度も20人が国内の事前研修を経て、豪州で8日間畜産を学んだ。畜産農家や食肉加工場などの視察、農業高校で現地の教師による講義も受けた。質疑応答時間を毎回超過するほどの熱心ぶりだったそうだ。(写真はイメージ)
帰国して間もなく、グループごとの報告会が行われた。「私たちが見た豪州の畜産」などというありきたりなテーマではない。海外の畜産を学んだ上で、日本の畜産の特徴、将来を語るというハイレベルなテーマだ。滞在中も毎日、視察内容をまとめ、報告会に向けて話し合いもしたという。
報告会は「ブラボー」の一言に尽きる。報告会は4グループに分かれて行われた。生徒が共通して抱いていた問題意識は、消費者と畜産の距離をいかに縮めるか。畜産の生産現場が住宅地から離れていることや防疫の観点からも、消費者と生産者、家畜との距離が拡大している。国内で畜産業を維持していくには消費者の理解が不可欠だとして、生徒たちは消費者が畜産にふれる機会を増やす必要性を訴えた。実は、参加者のうち農家出身(両親が農家)は4人のみで、大半が非農家だ。「畜産に触れる機会が少ない」彼らが、高校での学びを通じ、畜産に魅せられ、生産と消費の接近を訴えているのだから、これ以上の説得力はない。
豪州では動物福祉(アニマルウェルフェア)が定着しているという報告もあった。日本ではようやく緒に就いたばかりだが、その差を指摘するのではなく、「限られた畜舎で家畜を育てる日本では衛生管理が徹底している。これは日本にしかできない畜産」と訴えた。
引率した2人の高校教員の1人、熊本県立熊本農業高校の吉永憲生教諭は「生徒たちの主体性が伸びたのが最大の成果」と話す。教諭は渡航前と後の2回、生徒らに畜産への思いを尋ねた。出発前は「(畜産が)好き」など"形容する言葉"が多かったが、帰国後は「(畜産についてこう)考える、続ける、語れる」など"動詞"が増えるなど生徒の意識に明らかに変化があったという。
18年に始まった同事業。参加した生徒の相当数が卒業後に畜産業に就いている。農業高校の卒業生の就農率は1割に満たないといわれる中、事業の貢献度は高い。若者たちがこれほどの魅力を感じるほど日本の畜産業に底力があることも示している。
(Kyodo Weekly・政経週報 2024年9月2日号掲載)
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