知られることで居場所ができる 赤堀楠雄 材木ライター 連載「グリーン&ブルー」
2024.09.09
私と同じく、都会から山間地の集落に移住した知人が、地元の人たちから「○○(知人が住む地域の名)のどこがいいのか」と尋ねられ、自分の気持ちをうまく伝えられないもどかしさをSNSに綴(つづ)っていた。(写真:集落内を見回る。こうした営みに加わることで形成される人間関係が大事だ)
「自然が豊かで人が温かい」というのは実感している良さのひとつだが、本当のところは別にあってそれを伝えるのが難しい、という。
その「本当のところ」が何かは言及がないのだが、「移住したての頃よりこの3年くらいはすごく楽しい」とも書いているので、地域における自分の居場所が確たるものになっている手ごたえがあり、それが知人が感じている良さなのではないかと想像している。そして、私自身も実はそのことを実感している。
移住してからの期間は知人も私も十数年。地域は違うが、ほぼ同じ期間を移住者として過ごしてきた。私の場合は、7、8年前から地域のさまざまな役職を担うようになり、それらをこなす中で気心の知れた人が増え、素のままの自分を安心して出せるようになってきた。
ここに至る経過を振り返ると、人や風習、地理、地域の歴史などをよく知ろうと努めてきたのはもちろんだが、居場所づくりで効果があったのは、私の知識が増えたことよりも、私という人間をよく知ってもらえるようになったことが大きかった。私に対して安心して振る舞ってくれる人が増え、それによって私も安心して自分を出せるようになった。知ることも大切だが、知ってもらうことの方がより大切なのだと確信している。
ただ、素のままで振る舞える良さというのは、いわば空気感としてあるものであり、それをわざわざ地域で言う必要はないとも思う。仲のいい友だちに、どんなふうにしていつ頃から親しくなったと感じるようになったかを伝えることは、あまりしないだろう。それと同じことだ。
そう考えると、知人が「伝えるのが難しい」と感じている「良さ」が私と同じかどうか怪しくなってしまうが、知人も地域の住人としての歩みを重ねることによって、自らの居場所をつくってきたことに変わりはないはずだ。
当初はその地の自然に惹(ひ)かれて移住を決めたとしても、自然を愛(め)でるだけでは暮らしは充実しない。人間関係を育むことで実感できるようになる「良さ」がやはり大切なのだと思う。
最新記事
-
新米3千円「高すぎる」 農水省会議、コメ離れ懸念 週間ニュースダイジ...
▼2年連続、最も暑い夏 平年比で1.76度高く(9月2日) 気象庁は今年夏(6~8月)の日本の平均...
-
知られることで居場所ができる 赤堀楠雄 材木ライター 連載「グリー...
私と同じく、都会から山間地の集落に移住した知人が、地元の人たちから「○○(知人が住む地域の名)のど...
-
タレ濃厚化と温暖化 畑中三応子 食文化研究家 連載「口福の源」
ラーメン屋の店先に「冷やし中華はじめました」の貼り紙を見ると、夏が来たと胸躍ったのはいつまでだった...
-
「もうひとつの学校」と子どもたちの可能性 菅沼栄一郎 ジャーナリスト...
埼玉県の東武日光線幸手(さって)駅近くの商店街は、旧日光街道宿場町の面影が残る。夏休み明けに、約1...
-
新米価格、値上がりの公算 週間ニュースダイジェスト(8月25日~8月...
▼農水予算2.6兆円要求へ 食料安定供給へ構造転換(8月27日) 農林水産省は2025年度予算の概...
-
日系ラーメンがインド1号店 自社ブランド50店舗へ、サンパーク NN...
外食チェーンを複数手がけるサンパーク(大阪府吹田市)が、インドの南部カルナタカ州ベンガルール(バン...
-
コメ17%高騰、20年ぶり 週間ニュースダイジェスト(8月18日~8...
▼クマ対策、地域の連携強化 環境省、交付金30億円要求(8月19日) 環境省は2025年度予算の概...
-
太平洋クロマグロの漁獲枠拡大で合意 佐々木ひろこ フードジャーナリス...
7月半ば、日本の漁業者がここ数年待ち望んでいた大きなニュースが流れたことをご存じだろうか。マグロや...
-
空気を読んだ食事 鬼頭弥生 農学博士 連載「口福の源」
私たちの日々の食行動は、その基盤に自らの意思があるものの、自身の置かれた経済的・物理的状況のほか、...
-
観光ビジネスのプレイヤーの変化 森下晶美 東洋大学国際観光学部教授 ...
コロナ禍以降、観光に関わるビジネスプレイヤーが変化してきている。これまで観光というと、交通事業、宿...