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「もうひとつの学校」と子どもたちの可能性  菅沼栄一郎 ジャーナリスト  連載「よんななエコノミー」

2024.09.09

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「もうひとつの学校」と子どもたちの可能性  菅沼栄一郎 ジャーナリスト  連載「よんななエコノミー」の写真

 埼玉県の東武日光線幸手(さって)駅近くの商店街は、旧日光街道宿場町の面影が残る。夏休み明けに、約130人の小学生が制作した造形作品などを30カ所に展示する「アートさんぽ展」がある。

 「しょっかくを楽しもう!」。小学5年のみずほさんは「手のひらで触って、ムニュムニュと握ってもらう」スライムとラメや粘土、綿などが入った五つのビニール袋をぶら下げた作品を薬局に並べる。

 「もみもみするとね、日ごろの息苦しさがすっと抜ける時があるの。自分の世界が見えたりすることもあるんだな」

 駅近くの、2匹のヤギが住む広場と天井の高いアトリエがある「学(まな)びっ人(と)村(むら)」に、妹のはるかさん(小2)と通う。

 村長は、公立中学校で10年近い美術教師の経験がある彫刻家の小林晃一さん(66)だ。「ぼくも子どもの頃、石ころとか葉っぱとか、いじっているのが大好きだった」。小林さんとみずほさんが共有する「手のひら感覚」に近づきたい。

 今回のさんぽ展には、学びっ人村で学ぶ約50人に加え、近くの市立長倉小の6年生80人余りも参加する。

 佐藤美月(みづき)さんは、勢いよく吹き上げる噴水の形を碧(みどり)と銀の2色の針金で表現、寺の境内に置く予定だ。「深い青色の水の動きも見てほしい」と美月さん。宇宙が好きで、覚えた元素記号は50個を超えた。化合物やら元素やら、何で?なんで?と母親を質問攻めにする毎日だとか。

 そんな子どもたちが、絵や粘土、木工造形を街の金物店や美容院、パン屋さんなどに並べる。

 企画への参加を決めた井上弘江・同小校長は「子どもたちが学校の外へ出て、地域の人と一緒に、自分の作品を考えて。可能性を広げてほしい」。

 学びっ人村の中で、みずほさんら10人は、この4月からスタートした「オルタナティブスクール(もうひとつの学校)」で学んでいる。

 国語・算数・社会・理科・英会話など従来の教科も一通りこなすが、広場横の農場での米や野菜作り、木製ブランコや滑り台作りなど独自性も重視する。従来の公立学校には肌が合わなかったみずほさんは「前の学校ダイキライ」と言う半面、学びっ人村に通い始めたとたん、「こんな天国みたいな場所に行かない理由がわからない」。

 不登校の小中学生は2022年度に過去最多の約29万9千人(文部科学省調べ)を超えた。こうした子どもたちが学ぶ場所を確保するために、フリースクールなども増え、公立学校と連携する模索も進んでいる。

 小林さんはさんぽ展をきっかけに、長倉小との合同授業を、秋の稲刈りや正月の餅作りなどに発展させたいと考える。一方で、「在宅医療や看取(みと)り」を専門とする医師など専門家の話を親子で聞いて、社会の現実を知る体験授業も始めている。

 さんぽ展は9月5~8日だ。

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