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コメ自給へ生産効率向上余地 農業大国インドネシアの食料安全保障(3)  NNA

2024.07.01

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コメ自給へ生産効率向上余地 農業大国インドネシアの食料安全保障(3)  NNAの写真

 インドネシアはコメの生産量が世界4位だが、依然として国内供給量の一部を輸入に頼っている。背景にはタイやベトナムと違ってコメを戦略的輸出品にしていない政策的側面があり、干ばつなどが起きるとコメの不足や価格高騰を招くという課題がある。これに対し、稲作農家を支援するスタートアップ企業は、多収量の品種の使用などで生産効率を向上させれば完全自給の達成は可能だとみる。また農業専門家は気候変動にも対応するため、各地の風土に適応してきた品種を活用してコメの自給率を高める必要性を説く。(写真上:小規模農家を支援するスタートアップ企業アグリスパルタのガランCEOは、ハイブリッド米を栽培するなどしてコメの生産効率を向上させることで完全自給は可能だと話す=3月、ジョクジャカルタ特別州、NNA撮影)

 今後5年間に国のリーダーが解決しなければならない喫緊の問題は、「生活必需品の価格安定化」――。2月14日の大統領選挙で地場調査会社による出口調査で、有権者がこう答えた割合は約3割に上った。昨年11月から今年2月にかけての大統領選挙の運動期間中、エルニーニョ現象の影響による不作や収穫の遅れで、コメ価格は前年同月比で2~3割上昇していた。主食のコメをはじめ食料価格は政治の行方を左右するファクターだ。

 インドネシアの2023年のコメ生産量は、もみ米が前年比1.4%減の5398万トン、精米は1.4%減の3110万トンだった。一方、精米の輸入量は前年比7.3倍の306万トンに急増。輸入量が増加したのは、23年6月に発生が発表されたエルニーニョ現象に対応するため、備蓄を増やす必要があったためだ。自給率に換算すると23年は91%と、前年から8ポイント下落した。

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 インドネシアは温暖な気候で2~3期作が可能で、最大の収穫期は例年3~4月となる。だが、24年1~4月の生産量(精米、速報値)は、前年同期比17.6%減の1070万トンだった。エルニーニョ現象に伴う収穫遅れなどの予想は的中したが、国内のコメ価格は高騰し消費者の家計を圧迫した。

 ジョコ政権は結果的に輸入量を増やして難局を乗り切ったが、当初の輸入元だったインドが国内供給を優先して輸出を禁止したため、タイやベトナムからの輸入量を増やす対応にも追われた。

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 こうした背景には、タイやベトナムがコメを戦略的輸出品目とする一方、インドネシアはパーム油で外貨を稼ぐ戦略を取っていることもあるという。インドネシアのパーム油の23年の輸出額は240億米ドル(約3兆8350億円)で輸出全体の10%を占める。コメの輸入額は前年比で9倍に増えたが、18億米ドルにとどまったと見ることもできる。

 いずれにせよ、インドネシアのコメ自給率は100%に近いが、食料安全保障上は繊細なかじ取りが不可欠な状況に変わりはない。

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■ハイブリッド米で収量拡大


 「マクロ経済的にはその(パーム油で外貨を稼ぎコメは輸入する)戦略で間違ってはいないのだろう。しかし、コメ農家の生産性を15~20%向上させられれば、自給自足も達成できる」。インドネシアのコメ生産量の6割弱を占めるジャワ島のうち、東ジャワ、中ジャワ、ジョクジャカルタ特別州で、稲作農家を支援するスタートアップ企業アグリスパルタ・インドネシアのガラン最高経営責任者(CEO)は、まだ収量の改善余地があると指摘する。

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(農業やITなどのバックグラウンドを持つ、アグリスパルタのメンバー=3月、ジョクジャカルタ特別州、NNA撮影)

 アグリスパルタは、3州の小規模の稲作農家330人(作付面積は約160ヘクタール)に対して、収量の高いハイブリッド米や高品質の香り米などの栽培指導、無人機(ドローン)による農薬散布や生育状況の分析などを通して生産支援している。農業経験者や農業研究者ら約20人の従業員がいる。

 農家が必要な種子や肥料などの購入費は、アグリスパルタが負担し、生産したコメをアグリスパルタが全量買い取っている。このときに農家の生産コストを差し引く。買い取ったコメは、アグリスパルタが提携する精米所で精米して流通させている。

 使用しているハイブリッド米は、「SUPPADI(スパディー)56」や「MAPAN(マパン)P05」といった品種。スパディーの平均収穫量は、1ヘクタール当たり9~10トンで、最大12トンに上るといい、23年の全国平均収穫量5.29トンを大きく上回る。

 スパディーの種子の価格は、1ヘクタール当たり200万ルピア(約1万9000円)程度で、ハイブリッド米ではない在来種の7~10倍程度する上、肥料も必要となる。それでも収量の増加により、農家の収入を20~30%向上させることができているという。

 またジョクジャカルタの国立ガジャマダ大学が開発した、放射線育種米「GAMAGORA(ガマゴラ)7」をアグリスパルタの水田で栽培実証をした。ガマゴラ7は他の品種より少量の水で育つため、乾期でも1ヘクタール当たり10トンの安定した収量が見込めるという。放射線育種米は、作付けが禁止されている遺伝子組み換え作物(GMO)とは異なる。

 一方、課題は収穫したもみ米を精米する際の歩留まりの向上だ。もみは提携する精米所に持ち込んで精米している。使われている精米機は中国製だといい、ガラン氏は「日本メーカーの高性能の精米機を使えば精米の生産量はさらに増える」と指摘する。将来的に自社で精米所を持つ可能性もあるという。

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(アグリスパルタが委託している精米所では中国製の機械が使用されている。アグリスパルタのガランCEOは日本製が購入できれば歩留まりは改善されるとみている=3月、ジョクジャカルタ特別州、NNA撮影)

 アグリスパルタは、23年5月にシンガポールのファンドなどから資金を調達してプレシードラウンドを終えた。現在はシードラウンドに移行している。

 ガラン氏は、向こう1~2年で支援する稲作農家の品質・収量を安定化させ、高品質米を大量生産してコメのブランド化を目指すという。5~7年後にはインドネシアの高品質米の輸出や、開発中の健康に配慮した低糖質米を流通させることが目標だと話す。

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(香り米の一部は「アグリスパルタ」ブランドとして流通させている=3月、ジョクジャカルタ特別州、NNA撮影)

■ハイブリッド米依存、気候変動でリスクに


 ハイブリッド米は収量が多い一方で、気候変動への適応力という点では各地の気候風土に合わせて品種が固定化されてきた在来種(固定種)に比べて弱いという課題がある。小規模農家を支援する国際NPO「GRAIN」のカルティニ氏(アジアプログラム調整担当)は、「気候変動の真っただ中で、多くの場所で洪水や干ばつが起きている。ハイブリッド米は均一の収量を得るために開発された品種で、気候の変化には適応できずリスクが高い」と指摘する。

 ハイブリッド米は、異なる系統の品種をかけ合わせると第1世代の種子だけ、顕性(優性)の形質が現れるため、多収量の種子を均一に作ることができる。ただ、第2世代は形質がばらけるため、作付けのたびに第1世代の種子を種苗会社から購入する必要がある。カルティニ氏は、ハイブリッド米に適した肥料を購入する必要もあり、農家の生産コストは増加すると話す。

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 一方、カルティニ氏は気候変動に対応するには、例えば中ジャワ州沿岸部には長年かけてできた塩水に耐性を持つ在来種など、既に環境に適応した品種があり、各地の農家がこうした種子を交換して栽培するといった手法が有効だと話す。

 コメの完全自給を達成し維持するには、生産効率の向上だけでなく、気候変動への適応も不可欠といえる。(NNA)

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