災害に強い「水点」を考える 菅沼栄一郎 ジャーナリスト 連載「よんななエコノミー」
2024.06.24
5月の千曲川。初夏の日差しがまぶしい水辺にある長野県の上田市交流文化芸術センターの教室で、市民約60人が県の水道改革の進め方を議論していた。「これからは、水道のダウンサイジングだけでなく、『水点』をどうつくるかがポイントになります」。水ジャーナリスト、橋本淳司さん(56)が力説した。
人口減少が加速しているわが国では、稼働率6割といわれる水道施設を集約するとともに、小規模集落での「水点」の展開が焦点になるという。元日の能登半島地震では、石川、富山、新潟の3県で計11万戸以上が断水。4カ月たってもなお石川県の奥能登地方の約4千戸で続いた。災害に強くコンパクトな「水点」による配水システムが注目され始めた。
具体的には、浄水場から配水地までタンク車で水を運ぶ「運搬給水」や、ポンプなどの動力を必要としない「緩速ろ過」を住民で管理する方式などだ。
77の市町村がある長野県には小規模な簡易水道が多く、44団体に簡易水道がある。先の勉強会に参加した上田市議の斉藤達也さん(48)は「災害に強い水道を求める住民の思いが強くなった。分散型の水道をどう設計するかが重要です」という。
ただ、肝心の能登半島で「水点」をベースとした復興が進んでいるかといえば、技術力が追い付いていないようだ。橋本さんは「技術力を維持するための人材育成も必要」と指摘する。
昭和の時代に水道建設が進み、わが国の普及率は2020年で98%に。しかし、人口減少に転じる前から施設は過剰となり、稼働率は現状で6割。浄水場の廃止・統合など、ダウンサイジングが叫ばれている。
政府は水道広域化推進プラン作成を急ぐよう自治体にハッパをかけるが、動きは鈍く、取り組みが具体化しているのは「2割程度」(総務省)だ。市町村間で水道料金や施設整備水準などの格差が大きい地域もあり、調整に手間取っている。
奈良県は23年2月、県域水道一体化計画の基本協定を締結したが、県庁所在地の奈良市と葛城市が離脱した。県が示した水道料金の将来試算への不満や「自己水源を残したい」(葛城市)などが理由だ。一方で、大和郡山市は、自己水源の存続など条件付きで参加した。
こうした中、上田市はこの4月、長野市、千曲市、坂城町、県企業局の4者と水道事業広域化協議会を立ち上げた。県内初で最大規模の広域化となる。
斉藤さんは昨夏の大和郡山市視察を踏まえ、「最上流にあって多数の水源や浄水場を持つ上田市が、全体の議論をリードしていきたい」。勉強会に参加した上田市議の武田紗知さん(35)も「住民説明会ではお年寄りの姿が目立った。私たち若い世代が自分ごととして関わらなければ」と話した。
勉強会は、以前このコラムで紹介した「おいしい水を広める市民の会」が主催した。微生物による「生物浄化(緩速ろ過)法」で、山の湧水のような清水をつくるとされる染屋浄水場の改修も論点の一つとなった。
市民の会事務局長、川田富夫さん(75)は「若い人たちを巻き込み、世代を超えた提案を県の広域化案にぶつけたい。上田モデルを示したい」と話した。
(Kyodo Weekly・政経週報 2024年6月10日号掲載)
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