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「推し旅」押し上げる地方開催  森下晶美 東洋大学国際観光学部教授   連載「よんななエコノミー」

2024.06.17

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「推し旅」押し上げる地方開催  森下晶美 東洋大学国際観光学部教授   連載「よんななエコノミー」の写真

 〝推し旅〟というのをご存じだろうか。推し活旅、ファンツーリズム、ツアーツーリズムなどともいい、好きなアイドルやキャラクター、俳優、アーティストなど、いわゆる〝推し〟のイベントやコンサートに参加するため遠方まで旅行することで、ファンの間では〝遠征〟とも呼ばれている。世界的な規模では、今年2月に来日したテイラー・スウィフトの東京公演に海外からのファンが多数訪れた例もあり、その経済効果は4日間で341億円とも試算されている。

 以前からアイドルなどには追っかけファンが一定数みられたが、今、この推し旅が増え、地域や観光業からも注目されている。物価高で個人消費が伸び悩む中でエンタメ消費は着実に伸びており、2023年の興行は公演数、入場者数とも過去最高を記録した(一般社団法人コンサートプロモーターズ協会調べ)。こうした中、特に首都圏のホールやアリーナは施設自体の不足で確保が難しく、地方開催が増えてきていることも推し旅増加の背景にあるようだ。

 主催者側の事情はさておき、推し旅では普段、観光目的では行かないような土地にファンが赴くことも多く、「イベントがなかったら一生訪れなかった場所」と語る人は多い。近年、地域にとっては交流人口、関係人口の創出が一つの命題となっているが、まさに推し旅によって観光資源を持たない地域でも観光交流人口が創出されたことになる。そこで消費されるのは交通や宿泊のほか、せっかく来たのだからとその土地のおいしいものを食べる、お土産を買うなど、地域にもたらす経済効果も十分にある。推し活というと若い世代のものというイメージがあるが、現在では50代女性の約半数に推しがいるともいわれ、実はマーケットも広い。

 観光業界ではすでに推し旅を一つの顧客層と捉えており、推し旅と銘打った交通と宿泊のパッケージ商品が販売されているほか、JR東海は「推し旅公式サイト」を開設、旅行会社のクラブツーリズムでは「推しタビ会員限定割」があるほか、ホテルでは終演後の遅い時間でも食事ができるルームサービスを行うなど、その取り込みに力を入れている。

 観光業が注目する理由としては、客数の増加はもちろん、平日需要の底上げ、非観光・非ビジネスという新規層の獲得など従前とは違った需要が見込めるためで、開催日が分かれば需要予測が容易であることもありがたい点だ。

 私も今ごろは福岡遠征を済ませているはずだ。コンサートも楽しみだが、どんなおいしいものを食べようか思案中でもある。推し活ではどうも財布のひもが緩みがちになるようだ。

(Kyodo Weekly・政経週報 2024年6月3日号掲載)

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