水産資源管理の推進、なぜ重要か 佐々木ひろこ フードジャーナリスト 連載「グリーン&ブルー」
2024.06.17
日本の総漁獲量は長期にわたって減少し続けており、わが国海域の水産資源は今、間違いなく危機にある。沿岸開発や温暖化の影響、海の再生産能力を超えた漁獲などがその要因と考えられているが、いずれであったとしても、資源を回復させるためには資源管理を進めることが重要だという趣旨の講演を行うと、必ず受ける質問がある。
「管理を厳しくし、漁獲枠を設定すると、漁業者の収入が減って生活が成り立たないのでは」「漁村や地域社会が打撃を受けてしまうのでは」というものだ。
それらに対して私はいつも、このように答えるようにしている。「漁業者やその地域社会を守ることは、今後の日本にとってとても大切です。だからこそ水産資源管理を行い、海を豊かに戻す必要があるのです」
2015年9月の国連サミットで、加盟国193カ国が30年までに達成すると合意した「SDGs(持続可能な開発目標)」はご存じの方が多いと思う。気候変動や貧困問題、海洋資源枯渇などの社会課題解決に向けて掲げられた17の開発目標は、その翌16年、スウェーデンのヨハン・ロックストローム博士らによって「生物(環境)に関わる目標」「社会に関わる目標」「経済に関わる目標」という三つのカテゴリーに分類されている。
3層構造に図式化されているため「ウエディングケーキモデル」(図、出典:Azote Images for Stockholm Resilience Centre, Stockholm University)と呼ばれるこの考え方は、SDGsの目指す方向と全体像を示しており、中でも全ての土台となる重要な目標として「13・気候変動対策」「14・海の豊かさを守ろう」「15・陸の豊かさも守ろう」などが示されている。
つまり、人間の社会・経済活動は豊かで安定した自然環境の上に成り立っており、社会や経済に関わる目標設定は、生物(環境)の持続性に向けた取り組みなしに成立しないというわけだ。これを水産分野に当てはめて考えれば、水産資源や生態系保全の取り組みがあって(豊かな海が存在して)はじめて漁村や地域社会の維持や活発化が可能となり、漁業・関連産業の発展や漁業者の所得向上も見込めるということになる。
資源管理の推進と漁業者の生活を守ることは決して利益相反ではなく、同じ目標のもとにあるものだ。日本の海と水産業、そして食文化の明るい未来のために、水産改革がスピード感をもって進むことを期待している。
(Kyodo Weekly・政経週報 2024年6月3日号掲載)
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