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牛のげっぷ課税止めます NZ、排出権取引から農業を除外  NNAオーストラリア

2024.06.14

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牛のげっぷ課税止めます NZ、排出権取引から農業を除外  NNAオーストラリアの写真

 ニュージーランド(NZ)政府は6月11日、農業を炭素排出権取引枠組み(ETS)から除外し、労働党のアーダン前政権が打ち出した第1次産業界の気候変動共同行動計画「He Waka Eke Noa(HWEN)」を廃止すると発表した。世界的にも注目された、牛や羊のげっぷや尿によって排出される温室効果ガスに対して生産者に課税する世界初の制度は施行前に中止となる。

 政府は今後、生産者や農業団体と連携して新たな畜産セクター組織を設立し、家畜由来のメタン削減に取り組むとした。今月後半には気候変動対策法(2002年、CCRA)を改正し、農業界と家畜加工業界、肥料業界を25年1月よりETSから除外することに法的根拠を与える。これらの業界の非農業活動による排出は、引き続きETSの対象となる。

 ETSは08年に当時の労働党政権が導入した仕組みで、温室効果ガス排出量に価値を設定し特定の産業に対し排出対価として課税するもの。アーダン元首相が22年10月に、農業界を25年までに対象に含めると発表した。制度の実施により30年までにメタン排出量は4.0-5.5%、亜酸化窒素排出量は2.9-3.2%削減可能とされていた。一方で農家の収益性に対する影響は0-7.2%減少と試算された。発表後の農業界の反発は大きく、業界団体からは、生産者が農業から撤退する懸念などが示されていた。

■4億NZ$で現実的な技術開発


 今回の発表に当たり、マックレー農相は声明で「NZの農業界は世界で最も炭素効率が良く、生産や雇用を海外に流出させるのは理にかなっていない」と述べた。政府は今後、農業を停滞させずに気候変動目標を達成することに取り組むとし、生産や輸出に影響のない形で温室効果ガス排出量を減少させる現実的なツールや技術の開発に焦点を当てるとした。

 ワッツ気候変動相によると、政府は今後4年間で4億NZドル(1NZドル=約96円)を投じ、排出削減技術の商業化を加速する。同相はまた、NZ農業温室効果ガス研究センターに追加で5050万NZドルを5年間かけて拠出し、メタンワクチン開発や低排出牛の繁殖プロジェクトなどを推進するとした。

 資源管理法改正やたばこ禁止など、アーダン政権の政策を次々に覆してきた現政府はそのほか、前政権が主導したHWENも失敗だと断言した。「現在は生産者や加工業者と協力し生物由来のメタン削減に取り組む新たなスタートの時期」とし、業界団体のフェデレーテッド・ファーマーズや酪農業界団体のデアリーNZ、畜産のビーフ+ラムNZなどと協力していくとした。

■農業界は歓迎


 NZの農業界は今回の決定を歓迎した。デアリーNZは声明で「これまでは不確実性が高かったが、政府の発表は前向きだ」と評価。NZ酪農業の国際競争力を維持するには、科学的なアプローチに基づくべきとし、現時点でメタン削減の画期的な技術が存在しない中で、政府の継続的な研究開発投資を歓迎するとした。

 またビーフ+ラムNZは、近年植林地の拡大により牛と羊の頭数が減少し、30年までにメタン排出量を10%減らすという目標は超えるとの見通しを示し、「ETSに正当な理由はなかった」とあらためて強調した。

 一方で環境団体グリーンピースは「農業界や農業企業がETSを通じた責任を回避し続けるならば、他の業界がコスト増の形で負担するだけだ」と批判した。

■排出割合、農業は半分以上


 環境省によると、NZの22年の温室効果ガス総排出量は7840万トン(二酸化炭素換算)で、前年から4%減少し1999年以降の最小値となった。農業界の排出量は全体の53.2%を占める。

 NZ政府は2030年までに温室効果ガス純排出量を05年比50%削減し、50年までに実質ゼロにする目標を掲げている。

(オセアニア農業専門誌ウェルス(Wealth) 6月14日号掲載)

【ウェルス(Wealth)】 NNAオーストラリアが発行する週刊のオセアニア農業専門誌です。

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