涙の最終審議 「総意なき」改正基本法が成立 アグリラボ編集長コラム
2024.06.08

改正食料・農業・農村基本法は、5月29日の参院本会議で可決・成立、6月5日に公布・施行された。参院では「良識の府、再考の府」の名に恥じない審議を期待したが、与党・政府は野党の修正要求に一切応じず、法案を1本化できなかった。
農業政策は国民的課題であり、右も左もなく、党派を超えて合意形成を図るべきなのに、極めて残念だ。1999年に成立した基本法は野党の一部を除く圧倒的な多数で可決・成立している。今回の改正を一言で総括するならば「総意なき基本法」に劣化したことだ。基本法は、条文の内容以前の、根本的な欠陥を抱え込んだ。
参院の農林水産委員会の野党側には、徳永エリ氏(立憲民主)、田名部匡代氏(同)、舟山康江氏(国民民主)、紙智子氏(日本共産)と論客がそろっている。「農政4姉妹」は連携しながら建設的な質問を重ねたが、政府・与党側は衆院に劣るとも勝らない粗末な答弁を繰り返した。5月16日の農水委では、坂本哲志農相が「農業の生産基盤は弱体化していない」と放言した。農業従事者や農地が減少しており「弱体化している」とただす徳永氏を「一方的な決めつけだ」と批判した。結局、次週23日の農水委で発言を撤回し、答弁を修正、謝罪に追い込まれた。
審議中の政府の姿勢は徹底して硬直的だった。例えば、野党が「良質な食料」の定義に「安全な食料」が入るのかと問うと、農水省の杉中淳総括審議官は「(解釈上)含まれる」と明言しつつ、「良質で安全な食料」と修正する案を退けた。野党が「種(タネ)の記述が欠けている」と指摘すると「種子は肥料や飼料とならぶ重要な農業資材であり、包括的に書かせていただいた」(同)と、門前払いだ。
条文解釈をめぐる同様の問答が延々と続き、田名部氏は「何を聞いても前向きの議論にならない」と怒った。28日の委員会採決を控えた審議で田名部氏は、「なぜ(食料供給の)維持ではなく、向上と(条文に)書き込めないのか」と、政府の消極的な姿勢を批判し、「私が言っていることはそんなに間違っていますか、無理なことをそんなに言いましたか。(中略)こんなに虚しい議論をしたのは本当に残念で情けない」と涙声になった。
議場は静まり返った。農水省の政府委員はうなだれた。何人かはうなずいて同情していた。なぜか与党側の議員の多くは退席しており、坂本農相は手元の資料に目を落として田名部氏と目を合わせようとしない。田名部氏は「(改正案を)良い物にしたい、良い未来にしたい、そう思ったから基本法に真剣に向き合ってきた。本当に残念でならない」と涙をぬぐって最後の発言を終えた。
こうした情景や議場の空気は国会議事録に残らない。主要メディアも法案の内容と採決の結果しか伝えない。基本法は、このような状況の中で「改正」された。(共同通信アグリラボ編集長 石井勇人)
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