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なぜ売れる「おにぎり」  畑中三応子 食文化研究家  連載「口福の源」

2024.05.13

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なぜ売れる「おにぎり」  畑中三応子 食文化研究家  連載「口福の源」の写真

 ここ数年、おにぎりがブームだ。全国で専門店が急増し、ぐるなび総研の2023年「今年の一皿」には「ご馳走おにぎり」が選ばれた。(写真はイメージ)

 家庭料理では、15年に「おにぎらず」が大ヒットした。外食と中食では「ミシュランガイド東京2019」に初めて「おにぎり浅草宿六(やどろく)」が掲載されたことが、ブームのきっかけとされる。3〜6時間待ちの大行列ができ、1日に千個以上が売れる大塚「ぼんご」が、テレビや雑誌で繰り返し取り上げられたことも火付け役になった。

 「ぼんご」のメニューは50種類以上もあり、豚キムチ×納豆というように、2種類組み合わせもできる。作り方は独特で、ぎゅっと握らず、三角の型にご飯をはめて崩れない程度に押さえるだけ。米の粒と粒の間に空気が入って、ふんわり柔らかい。最後に具をたっぷりトッピングするので、見た目が華やかだ。

 戦後の闇市で花形だったのが、銀シャリ(白米)のおにぎり。「ぼんご」が創業した1960年は、おにぎり屋が次から次へとでき、デパートでも販売されるようになった最初のブームの最中だった。当時は食の西洋化とインスタント食品の普及が進んだ時期で、失われつつある郷愁の味、おふくろの味が、おにぎりに求められたのである。

 今回のブームは、1個300円から700円もする高価なおにぎりが売れていること、具が斬新で種類豊富なこと、見映えにこだわること、ぼんご風のふんわりタイプが主流なのが特徴。イートインできる店はむろん、テイクアウト専門でも注文してから作る店が多い。

 食品の高騰が続くなか、おかずを買わなくても1食として完結する高級おにぎりは、心も豊かになるプチぜいたくとして享受されている。とはいえ、500円超えはちょっとひるむ値段である。

 専門店にも増して、コンビニおにぎりも進化している。昨年、セブンーイレブンは京都の老舗米屋と協業して米のブレンド、精米、炊飯を見直した「こだわりおむすび」を発売。ファミリーマートは恒例の「春のおむすび祭り」を強化して新商品を開発し、ローソンはおにぎりのふっくら感を引き出す立体成形機を全工場に導入し、握る工程を刷新した。

 「おにぎりの文化史」(河出書房新社)によると、コンビニで売れているおにぎりは年間推定60億個。コンビニ米飯類売上高の約60%を占め、セブンーイレブンの販売数は7年前の約8割増だそうだ。増えている理由の一つは、スマホをいじりながら片手で食べられるタイムパフォーマンスの高さ。一方、弁当の売り上げは減っているという。

 最近、コロナ禍中に増えた唐揚げ専門店の閉店が目立ち、タピオカ専門店はほぼ姿を消した。これがブームの怖さだ。減り続ける米需要の引き上げが期待できるおにぎりだけに、一過性のブームで終わらないでもらいたい。

(Kyodo Weekly・政経週報 2024年4月29日・5月6日合併号掲載)

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