補助金漬けでは考える力が育たない 赤堀楠雄 林材ライター 連載「グリーン&ブルー」
2024.05.13
最近、スギやヒノキの人工林を「若返り」と称して皆伐(かいばつ)(一定面積の樹木をすべて伐採すること)し、若い苗木に植え替える事業が国や自治体の手厚い補助制度のもとに進められている。背景には、若い木の方が成長が旺盛で二酸化炭素(CO2)を多く吸収するので、地球温暖化防止に貢献できるという理屈がある。
ただ、若返りの掛け声で伐採されているのは、樹齢50~60年から80年程度の木で、けっして老齢なわけではない。優に数百年は生き続ける樹木の生理からすると、まだまだ若く、成長途上なのである。
それでも伐(き)られてしまうのは、成長の速度がすでにピークに達したと判断されているためだ。ところが、樹齢100年くらいの木でも成長力が衰えないとする研究成果も明らかになっており、植え替えがCO2の吸収量を増やすためだというのは実は根拠が薄い。
そもそも樹木をすべて伐採する皆伐という手法を一択であるかのように推奨するのはどうか。既存のスギ林を花粉の少ない品種に植え替える事業も、やはり皆伐で進められているが、自然へのインパクトが大きな手法を、温暖化や花粉症への対策だと言って公共性が高いかのように喧伝(けんでん)することには違和感を禁じ得ない。(写真:手入れをきちんと続ければ、木の成長力は衰えない)
樹齢50~60年の木は、木材としては十分利用可能な大きさになっている。それを皆伐するのは生産効率はいいが、伐採跡地に苗木を植えて世話をする経費がかかるから、収支はけっしてよくない。
だが、公共性を理由とした補助金が使えれば、当然採算は良くなる。結局、温暖化対策も花粉症対策も、皆伐による木材生産への補助金交付を可能にするための方便ではないかと勘繰りたくなる。もっとも花粉症対策については、岸田総理が前触れもなく言い出したことなので、林業関係者はそれに乗っただけとも言えるが。
利用可能な大きさに育った木は、この後も成長し続けるから、適度に間引きながら木材を生産し続けるという戦略も成り立つ。伐採跡地に植林する手間や経費も不要だ。
もちろん、細い木もラインアップに加えたいからと皆伐して若い木に植え替える選択肢もある。要はそれぞれが経営戦略を立て、どんなやり方がいいのかを自分で考えればいい。公共性を盾に補助金を捻出するばかりでなく、考える力を育む施策を講じてほしい。
(Kyodo Weekly・政経週報 2024年4月29日・5月6日合併号掲載)
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