生ごみのリサイクル 野々村真希 農学博士 連載「口福の源」
2024.05.06
ごみとして捨てざるを得なかったものが、自然界の微生物の力によって実質的に価値のあるものに生まれ変わるって、なんて有意義で豊かなんだろう。今年の初めに訪れた山形県長井市の生ごみ堆肥化施設「長井市レインボープランコンポストセンター」で、山盛りになったフカフカの堆肥を見てそう強く思った。
長井市は、市内中心部の5千世帯から食べ残しや調理くずなどの生ごみをバケツで分別収集し、コンポストセンターで堆肥化するという取り組みを1997年から続けている。できた堆肥は農家や市民に販売され、それを使って栽培された米や野菜は地域の学校給食でも提供されているそうだ。生まれ変わったおいしい食べ物がまた自分のところに戻ってくるというのも最高じゃないか。
日本では、家庭の生ごみはその他のさまざまなごみと一緒くたに収集された上で焼却処分されることが一般的で、長井市のように生ごみだけを分別収集し堆肥化している自治体は珍しい。とはいえ、農業の盛んな地域ではちらほらあるようで、ごみ問題についての情報発信を行う市民団体「ごみ・環境ビジョン21」によれば、北海道北斗市、鹿児島県志布志市などでも比較的大規模に家庭の生ごみ分別収集・堆肥化が行われている。愛知県豊橋市や新潟県長岡市、上越市などでも分別収集されており、こちらはバイオガス化されエネルギーとして活用されているという。
海外に目を向けると、家庭の生ごみの分別収集・リサイクルを、もっと広範囲に強力に進めているところがある。韓国では2005年から生ごみの分別が一般家庭に義務付けられ、13年からは生ごみ排出量に応じた料金の支払いが求められるようになった。制度ができる前の1996年には生ごみのリサイクル率は2.6%だったが、現在は9割近くになっているそうで、リサイクル率の高さとその推進スピードにびっくりだ。また、フランスでは今年1月から、生ごみを各家庭あるいは地域のグループで堆肥化するか、分別して自治体に収集してもらうかしないといけないことになった。
日本でも、機器などを各家庭に助成して生ごみ堆肥化を支援する自治体は少なくないし、近頃はファッショナブルに堆肥化に取り組めるアイテムも販売されている。けれど経験者は思う。いくら生ごみ堆肥化に取り組みたくても、途中で虫が湧いたり、生ごみがちゃんと堆肥になっているのかよく分からなかったり、できた堆肥の使い道がなく余らせてしまったりして、結局は途中で挫折してしまうのだ。個人で堆肥化をマスターするのはもはや趣味の域である。意味ある規模で持続的に生ごみをリサイクルしていくためには、生ごみ分別収集をはじめとした社会の仕組みづくりが不可欠と思う。
(Kyodo Weekly・政経週報 2024年4月22日号掲載)
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