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家庭ごみ組成調査  野々村真希 農学博士  連載「口福の源」

2024.04.01

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家庭ごみ組成調査  野々村真希 農学博士  連載「口福の源」の写真

 日本で発生する食品ロス量の推計値は年間523万トン(2021年度)であり、そのうち食品関連事業者から発生するものは279万トン、家庭から発生するものは244万トンである。前者は、食品リサイクル法に基づいて食品関連事業者が定期報告する食品廃棄物量から推計されているが、後者の家庭の食品ロスの推計の基となるのは、市区町村が実施する家庭ごみ組成調査によって得られるデータである。

 家庭ごみ組成調査というのは、ごみ収集日に一般家庭が出すごみ袋をピックアップしてきて開封し、中身を生ごみや容器包装ごみ、紙ごみなどを手作業で分類してそれぞれの重さを量る、という調査である。非常に臭い調査で、調査が終わって部屋に戻ったら空気清浄機のアラームがけたたましく鳴ったとか、調査の帰り道の電車の中で自分の周りからどんどん人が離れていったとかいうのはよくある話である。食品ロス量の計測にあたっては生ごみを詳細に分類する必要があり、その場合は食べ残しとかコーヒーかすとかがぐちゃりと混ざったものを選り分けないといけないので、なかなかグロテスクでもある。

 しかしながら家庭ごみ組成調査は、食品ロス量を客観的に把握できる貴重で重要な調査なのである。食品ロス量を把握する方法は、例えば他にも、生活者に一定期間捨てた食品を記録していってもらう方法(「食品ロスダイアリー」と呼ばれる)や、アンケートで生活者に食品を捨てる頻度や量を尋ねるという方法もある。しかしこれらの方法は、捨てた食品を記録する行為自体が行動に影響を及ぼし、食品ロスが少なくなるという問題(少なることはいいことだが、正確に把握できないという点で問題)や、回答者が食品を捨てる頻度や量を正しく把握していない(たいていは少なく見積もっている)という問題がある。それに対し家庭ごみ組成調査は、捨てられた後のごみを第三者が調査するので、調査自体が生活者の行動に影響を与える心配がないのだ。

 私もこの数年、幸か不幸かこの家庭ごみ組成調査を行う機会に恵まれた。特定の地域で家庭の食品ロス削減キャンペーンを実施し、その前後で食品ロス量を測定して比較することでキャンペーンの効果を検証する、という研究に参加しているからである。(写真:家庭ごみから出てきた食品の数々。筆者提供)

 家庭ごみ組成調査ではさまざまな食品ロスを目の当たりにするので、ショックを受けるし、いろいろと考えさせられる。賞味期限切れ当日のレトルト食品、めちゃくちゃ分厚く剝(む)かれたリンゴの皮、炊かれた後ひと混ぜもされないまま炊飯器形に固まった白米、ごみ袋いっぱいの芽が出たジャガイモ、ケーキ丸ごと...。調査からはうかがいしれない事情もあるだろうが、食べ物への意識や扱い方が本当に人それぞれであることを思い知らされる。キャンペーン効果の検証結果はまだ出せていないが、家庭の食品ロスを削減するのはやっぱり一筋縄ではいかなそうである。

(Kyodo Weekly・政経週報 2024年3月18日号掲載)

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