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離島漁業から生まれる味のストーリー  佐々木ひろこ フードジャーナリスト  連載「グリーン&ブルー」

2024.04.01

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離島漁業から生まれる味のストーリー  佐々木ひろこ フードジャーナリスト  連載「グリーン&ブルー」の写真

 昨年の夏からご縁をいただき、離島の魚を使った商品開発に法人として携わっている。かねてから離島の漁業に興味があった私にとって、実に学びの多いこのプロジェクトは、離島地域で揚がる魚の中から低利用魚などを島ごとに1種セレクトし、それを素材として使ったスープを開発、レトルト化するという楽しいもの。では、どうして離島の漁業が大切なのかについて少し触れてみたい。

 国土地理院が2023年に発表したデータによると、日本の島の数は全部で1万4125。日本列島を中心に、瀬戸内のような近海の島はもちろん、八重山列島や小笠原諸島のような本土からはるか離れた場所に浮かぶ離島も多い。

 つまりそんな島々が存在するからこそ、国土の小さい日本が世界第6位という広大な排他的経済水域(EEZ)を持つわけなのだが、一方でこの広い海域をくまなくモニタリングし、日々守り続けるのは至難の業だ。水産庁の取締船や海上保安庁の巡視船だけではまず手が回らない。

 そんな中、なんと418もあるという有人離島の存在は大きいのだ。漁業が主力産業の島が多い中で、そこに生きる人々の日々の営み、朝に夕に海を見つめて暮らす人たちの存在は、周辺の環境を守り、また海を守る要衝にだってなり得る。さらに私たちの海の端から端まで張り巡らされた離島漁業のネットワークからは、日本の多種多様な魚地図が浮き彫りになるはずだ。

 さて、今回第1弾として完成したスープは3種類。「Chefs for the Blue」のメンバーで、恵比寿のフレンチレストラン「アムール」のシェフ後藤祐輔さんが開発したのは、「与論島テングハギボールとキノコのオニオンスープ」、「弓削島(ゆげしま)ごろっとチヌ(クロダイ)とサツマイモのクラムチャウダー」、そして「対馬島のアイゴと野菜の具沢山(ぐだくさん)スープ」。(写真:完成した3種類のスープ。Chefs for the Blueのウェブサイトより)

 流通事情から鮮度では勝てない島の魚を、おいしい加工品にして離島漁業を支えるスープ、海藻を少し食べ過ぎてしまう魚をおいしくいただくことで、海の環境バランスを調えるスープなど、ストーリーがある三つのおいしさ。街で見かけたらぜひ、手にとってみてください。

(Kyodo Weekly・政経週報 2024年3月18日号掲載)

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