50代以上の女性に国内旅行離れ 森下晶美 東洋大学国際観光学部教授 連載「よんななエコノミー」
2024.04.01
国内旅行者延べ数は昨年12月時点で2019年度比85%まで回復しているが、コロナ禍を経て市場の変化がみられる。中期的には17年の6・5憶人をピークに国内旅行者数、旅行回数ともに市場自体が縮小しており、背景には少子化やレジャーの多様化が指摘されている。
そんな中、コロナ禍以降、特に顕著な変化として50代以上の女性の旅行離れがある。1年間に1回以上の国内宿泊旅行をした人の割合「年間宿泊旅行実施率」を見ると、50~79歳女性は05年で69・7%、全世代・性別中トップで国内旅行市場をけん引していたが、22年では39・9%まで低下しセグメントの中で最低となった。この要因としてコロナ禍による旅行忌避の影響も大きいが、実は旅行商品のデジタル化がある。これまで、熟高年女性の旅行の購買行動で媒体として多かったのは旅行会社店頭にある旅行パンフレットであった。買い物などの外出ついでに店頭のパンフレットを何となく手にして旅行に行きたくなるというものだ。
しかし、旅行会社はコスト削減やデジタルの普及を理由に店舗や紙のパンフレットを大幅に削減、媒体や予約をデジタル化し、コロナ禍において一層加速させた。これにより旅行情報に触れる媒体が一気に減少し、彼女たちのレジャー行動から旅行という選択肢が抜けていった。これまで最も旺盛な旅行消費をしてきたこの層の旅行離れは市場全体にも大きく影響している。
もう一つの大きな変化は、旅行費用の上昇である。日帰りを含む国内旅行の支出は14年で1回1人当たり3万947円であったが、23年には4万3995円となっており、この10年で42%上昇した。1泊以上の宿泊旅行で特に上昇率が高く、21年までは5万円前後で推移していたが、22年には一気に1万円近く上昇し5万9042円、23年では6万3212円となった。
こうした旅行費の上昇は活発な個人消費に支えられたものではなく、近年の物価や人件費の上昇とインバウンド旅行者の回復、その旺盛な消費の結果である。モノの爆買いは下火になったが、円安を背景に飲食や宿泊などのサービス消費が伸び、23年のインバウンド1人当たり旅行支出は21万2193円、19年比でプラス33・8%となっている。インバウンドの消費が伸びること自体は喜ばしいのだが、最近ではインバウンド向け商品に高額なものがあることを表す〝インバウンド価格〟などという言葉も生まれ、手の届かない私たちは遠巻きに眺めるだけの寂しい状況だ。
どちらの変化もコロナ禍はきっかけに過ぎないが、けん引層の変化と価格の大幅な上昇は国内旅行の構造を大きく変える可能性があり注視が必要だ。
(Kyodo Weekly・政経週報 2024年3月18日号掲載)
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