余剰食料で「コーヒー」製造 シンガポールのフードテック企業 NNA
2024.03.20
シンガポールのフードテック(先端食品技術)企業プリファー(Prefer)は、食品廃棄物や副産物をアップサイクル(従来廃棄していた原料や商品などを加工し、新たな製品に変換)したコーヒー風味飲料の原料や製品を製造・販売している。コーヒー豆を使わない「持続可能な代替コーヒー」としての需要を見込む。今後はフィリピンを皮切りにアジア太平洋地域で拡販していく計画。日本での事業展開も視野に入れている。
プリファーはジェイク・バーバー最高経営責任者(CEO)と食品科学者であるタン・ディンジエ最高技術責任者(CTO)が2022年に共同設立したスタートアップだ。研究過程でパン、大豆、大麦の風味分子がコーヒーに類似していることを発見し、これらを主原料とした代替コーヒーの粉を開発している。(写真:プリファーのジェイク・バーバーCEO=左=タン・ディンジエCTO、同社提供)
具体的には、パン製造会社から出る余剰在庫のパン、豆乳メーカーから出る大豆パルプ(おから)、ビール醸造所から出る使用済み大麦をアップサイクルして製造する。一定の比率で配分して発酵させた後に焙煎(ばいせん)し、最後に粉砕して代替コーヒーの粉を生成する。
発酵と焙煎の全工程にかかる時間は48時間。コーヒーの木が収穫されるまでに必要な5年の歳月に比べると、極めて短期間でコーヒー風味の飲料を製造できるのが特長だ。
エスプレッソ・コーヒー・マシンを使うなど、その場でコーヒー豆をひいて飲み物を提供するカフェや飲食店が増える中、プリファーはまずラテを作るために同社の製品を使うことを店舗に勧めている。
現時点でカフェやファストフード店を含むシンガポールの計15店舗で利用されている。同社の広報担当者によれば、価格はカフェが使用する本物のコーヒー粉とほぼ同じか、若干安い。
顧客のニーズに応じてカフェインを加えていない「デカフェ」製品も提供している。デカフェとカフェイン入りの2種類のボトル入りラテの製造・販売も開始した。原料はコーヒー風味の粉、オーツミルク、キャラメル、トウモロコシ、キヌアなど。価格は7Sドル(約773円)だ。
バーバーCEOは「われわれの使命は、おいしくて手ごろな価格で、長期的に持続可能な代替コーヒー飲料を作ることだ。気候変動によってコーヒーの農地が減少し、コーヒーの価格が上昇し続ける中、プリファーの製品が将来、コーヒーの代名詞になると信じている」と意気込みを語った。
タンCTOは「研究開発は継続的なプロセスで、常に製品の改良に努めている」と語った。エチオピアやコロンビアなど、さまざまな産地のコーヒー豆の風味を模倣した製品を作っていく計画も明らかにした。
■他の作物にも応用
プリファーはシンガポール中央部のバイオ研究集積地「バイオポリス」にあるフードテックのイノベーションセンター「ヌラーサ」で製品を開発・製造している。施設には、オフィス、研究所、研究開発センターもある。
今年2月には、創業間もない資金調達の段階となるシードラウンドで200万米ドル(約2億9400万円)を調達したと発表した。代替コーヒーの粉とボトル入りラテの製造・販売体制を強化する資金に充てる。
出資者にはシンガポール政府機関のほか、フィリピンのコーヒーチェーン、ピックアップコーヒーが含まれる。フィリピンに今年進出するのを皮切りに、他の東南アジア諸国やアジア太平洋地域へ事業を拡大していく計画だ。
日本での事業展開も検討している。バーバーCEOは「日本にはコーヒーやカフェの文化がある。コーヒーチェーン、ホテル、外食産業などに販売する余地がある」と語った。
気候変動が放置されれば、50年までにコーヒー生産に使われている農地の5割が失われる可能性が高いという試算が出ている。世界的にコーヒーを飲む文化が拡大する中、今後の供給と価格に大きな影響を与えることが予測されている。
バーバー氏とタン氏は、発酵バイオテクノロジーをカカオ、バニラ、かんきつ類など気候変動の脅威にさらされている他の作物にも応用したいと考えている。(NNA Celine Chen)
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