集客・物流拡大へ架け橋効果 小島愛之助 日本離島センター専務理事 連載「よんななエコノミー」
2024.03.11
わが国に「大島」と名の付く有人離島は19あり、うち最北端にある島が宮城県気仙沼市の気仙沼大島である。気仙沼湾のほぼ中央に位置する県内最大の島で、改元前の平成31(2019)年4月7日に「気仙沼大島大橋」が開通し、それまでフェリーで約25分要した島に車で往来できるようになった。橋脚間の長さは297メートル、アーチ橋としては東日本で最長である。
島の標高は「しま山100選」の一つ、亀山の230メートル超で、山頂には希少な〝緑の桜〟御衣黄(ぎょいこう)が自生している。気仙沼大橋の通称、鶴亀大橋は、本土側の鶴ケ浦と亀山に由来する。島全体も緑と花の宝庫といえるほど、ツバキ、ヤマツツジなどが咲き乱れ、四季折々に魅力的な表情を見せてくれる。島出身の童話作家、水上不二(みずかみ・ふじ)は「大島よ 永遠にみどりの真珠であれ」と、たたえている。
島には縄文時代のものといわれる磯草貝塚や浦の浜遺跡があり、亀山の中腹に千年以上の歴史を誇る延喜式(えんぎしき)神社である大島神社がある。さらに山頂の展望台の先には天空の神社である愛宕神社があり、その階段に腰掛けると海と山と島からなる絶景を見渡せる。ちなみに、全国で約900社に及ぶ愛宕神社の総本宮は京都の愛宕山にあり、主祭神は火伏(ひぶ)せ、防火の神様である。そのためもあってか、東日本大震災の際に起きた亀山の火災でも愛宕神社は燃え残った。
島の北東部にある長さ約200メートル、幅約30メートルの十八鳴(くぐなり)浜は、全国でも数少ない「鳴き砂」として知られている。乾いた砂を踏むと、純度の高い黄褐色の石英粒(せきえいりゅう)が摩擦でこすれてクックッと鳴くような音がすることから十八鳴浜と名付けられた。一方、島の最南端にある龍舞崎(たつまいざき)も景勝地の一つである。クロマツ林の中に整備された遊歩道を進むと、岬の先端にある白亜の龍舞崎灯台に行き着く。この灯台は、漁船などに気仙沼の入り口を知らせる役割を担っている。そこから望む太平洋には、海食による岩礁の景色が広がり、まるで龍が舞い上がるように荒波が打ち寄せる。
人口減少と高齢化の波も、例外なく気仙沼大島に押し寄せている。10年前には約3千人であった人口は2200人程度(気仙沼市全体は約5万8千人)に減少し、高齢化率は54.4%(同40.4%)に至っている。こういった状況下での地域活性化を鑑みると、気仙沼市街地まで約15分で行けるようになった鶴亀大橋の効果は大きく、今後はその恩恵を最大限に発揮できるように施策を進めていく必要性が感じられる。
特に、本土との人の行き来や物流だけでなく、観光をはじめとする交流人口の拡大にも注力することは喫緊の課題である。鶴亀大橋が開通した19年は年間67万人が気仙沼大島を訪れている。その後、新型コロナウイルスの流行で交流人口の落ち込みはあったが、次第に回復してきているという。フェリーターミナル跡の商業施設「野杜海(のどか)」のオープンや休暇村気仙沼大島のリニューアルなどの取り組みがみられ、アクセスも格段に良くなった。日帰り周遊も可能となった今、観光客をいかにして大島に宿泊させるか、真剣に取り組まなければならない。
(Kyodo Weekly・政経週報 2024年2月26日号掲載)
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