変わるわざわざ感 春節の贈り物事情 上海在住・野村義樹 連載「中カツ!通信」
2024.03.11
2月10日に旧正月の辰年がスタートした。中国の春節(旧正月)前後にも「年貨」と呼ばれる贈り物をする習慣がある。ただ日本のお歳暮が1年間の感謝の気持ちを表すために友人や仕事関係者に贈るものなのに対して、中国の年貨は新年を祝うために用意する物であり、始まりは自分や身内向けの年越し用品である。そのため年貨の中身は食料から服、装飾品、紅包袋(お年玉袋)まで実用的なものが多く含まれる。
元々、物資も不足していれば交通インフラも発展していない時代、お正月を迎えるための年貨は、前もって各地から「わざわざ」準備するものだった。
ところが中国でも豊かになり、EC(電子商取引)が発展してインターネットと配送インフラが全国に張り巡らされると、「新しい服を買ってもらい、チョコレートを食べられるのは、お正月の時だけ」なんていう特別感はなくなりスマホで頼んで30分で来るのが当たり前になってしまった。
ただ中国社会で数十年前から続く職場が年貨を配給する習慣は綿々と受け継がれており、私の会社は今年の年貨が米2・5キロ、オリーブ油1キロ、餅、菓子、洗剤、シャンプーなど日用品の詰め合わせ。日用品ながらパッケージは赤だったり、餅が縁起物の魚の形をしていたりと正月らしい。全部合わせると10キロ近くになる重量で運ぶのも一苦労。実際、多くの従業員は何回かに分けて持ち帰っていた。(写真:筆者の会社で旧正月の年末に配布した年貨)
会社の予算の関係から、年貨の質では「わざわざ」調達しましたという存在意義を感じさせることができないので、せめて量と重さで従業員に対し感謝の意を示そうという思いもある(もちろん一部の従業員には思いが重すぎて不評である)。
ただ社外向けの年貨となると重量勝負とはいかない。やはり、わざわざ感があったほうがよいので、最近であれば、海外のワイン、ウイスキーなどの酒や、海外のトリュフ、キャビア、フォアグラなど「普段は食べないけど、値段が高いのは知っている」食品を贈る人もいる。
ところが、これら食品もMade inChina化が進んでいる。雲南省のトリュフ、四川省のキャビア、安徽省のフォアグラ、浙江省のエスカルゴなど、遠く離れた海外からわざわざ届いた高級珍味だと思っていたら、隣の省で原料から製造されていたなんてことが増えてきているのだ。
基本的な衣食住が満たされれば、今度は特別な物が欲しくなる。高くても欲しがるものは供給量が増え、値段が下がり、コモディティー化していく。今後、贈り物に「わざわざ」という付加価値を付けるには、モノそれ自体ではなく渡す過程に移っていくのかもしれない。
あえて宅配もタクシーも使わず、携帯も持たず、紙の地図を頼りに、重たい年貨を持ってきた人がいたら、心の底から「わざわざありがとうございます」と思わず言ってしまうだろう。ただ強い印象は残るが、ビジネス上プラスになるのかは、よく考える必要があるのは言うまでもない。
(Kyodo Weekly・政経週報 2024年2月26日号掲載)
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