しなやかな連携で被災者を支援 沼尾波子 東洋大学教授 連載「よんななエコノミー」
2024.02.12
2024年元日は能登半島地震に始まった。半島という地形から、災害の起こり方も過去の大規模地震とは異なり、また支援に入ることが難しく、孤立する地域もある。
過酷な被災地の状況に、何か支援をしたい。自治体や日本赤十字社などが始めた義援金の募集には多くの寄付が集まっている。他方で、物資の寄付やボランティアについては、現地の体制が整わないことには難しい。
行政や社会福祉協議会などにより、現地の混乱を回避しながら支援を行うシステム構築が図られている。だが、こうした支援ルートと連携しながらも、独自のネットワークで被災地支援を行う団体が石川県白山市の社会福祉法人「佛子園(ぶっしえん)」である。
佛子園は、同県小松市で誰もが安心して暮らすことのできるごちゃまぜ福祉の場として「三(さん)草二木(そうにもく) 西圓寺(さいえんじ)」を創設。その後、金沢市郊外に「Share金沢」をつくったところ、首都圏などから多くの高齢者が移り住み、話題となった。ここには、高齢者のみならず学生が居住するエリアのほか、温泉やレストラン、カフェ、アルパカ牧場など、地域の人々が出入りできる拠点として、豊かな空間が整えられている。
佛子園は、同県輪島市でも拠点施設「輪島カブーレ」を展開する。〝ごちゃまぜ福祉〟からまちづくりへと展開した交流拠点整備は地域に豊かなつながりの場を創出し、国が地方創生戦略の一つに掲げる「生涯活躍のまち」の先駆的事例とされた。このほか、同県能登町では障がい者就労の場としてビール醸造所「日本海倶楽部」の運営を25年にわたって行っている。
さらにユニークなのは、佛子園が青年海外協力隊のOBOGの団体である青年海外協力協会(JOCA)と連携していることだ。今回の震災では、佛子園が持つ地域のつながりと、JOCAが有する大規模地震での復旧復興支援経験を持ち寄り、1月4日には先遣隊が被災地に入り支援を始めた。
震災直後に必要な支援物資をリスト化し、ロジ拠点となるShare金沢に集約。奥能登の輪島カブーレと日本海倶楽部を現場拠点として、いち早く支援の取り組みを進める。
支援物資の活用状況をウェブサイトで報告するなど、災害復旧・復興の場においても、リアルタイムで支援者と被災者双方向のつながりを大切にした運営を行うことにも驚かされる。
佛子園のウェブサイトには義援金やボランティア募集のほか、日本海倶楽部で醸造されたビールを飲んで被災地を支えるなど、多様な支援への参加方法が並ぶ。
丁寧な参加とつながりづくりが、災害時にあっても地域を支える。
(Kyodo Weekly・政経週報 2024年1月29日号掲載)
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