日航、伊藤忠、サッカー主審... 女性活躍を物語る1年に 藤波匠 日本総合研究所調査部上席主任研究員 連載「よんななエコノミー」
2024.02.19
活躍する女性の話題がいくつか飛び込んできました。まず驚いたのが、4月1日付で日本航空の社長に鳥取三津子氏が就任するという話です。(画像はイメージ)
鳥取氏が社長に就任すれば、初物尽くしのトップ起用となります。まず、国内2大エアラインでは初めての女性社長です。また、日本航空ではこれまで整備士、パイロット出身の社長はありましたが、キャビンアテンダント出身者はいません。
さらに言えば、国内大手企業では、生え抜きであることが経営に携わる重要な要件であることは珍しくありませんが、そうした点からも鳥取氏は変わり種です。日本航空も近年は生え抜きが社長を歴任してきましたが、鳥取氏の入社は東亜国内航空です。東亜国内航空は、一時期国内の3大エアラインの一翼を担っていましたが、経営悪化により、日本航空が吸収する形で経営統合となっています。吸収された側出身の社長就任も、もちろん初めてです。
日本航空は、能力主義、ダイバーシティーの観点から鳥取氏をトップに据え、これまでの慣習を破って新しい経営に踏み出そうとしているわけですが、同社には、少し前からこうした動きが随所に見られました。例えば、これまで男性の仕事とされていた現場系の仕事に、積極的に女性従業員を充当しています。昨年10月16日号の本欄において、羽田空港のグランドサービスで女性の活躍が目立つことを取り上げました。羽田空港で著者が見かけた女性従業員は、日本航空グループのJALグランドサービスの方々でした。後に同社の人事部にお聞きしたところ、会社として女性活躍を推進していることはもちろん、若い世代の意識改革も進み、採用の応募の段階では、すでに男女半々とのことでした。
日本航空に限らず、今後経営のトップに立つ女性が増えてくることが予想されますが、多くの企業でその候補者が少ないことが課題です。大手商社の伊藤忠商事が、4月1日付の役員人事で、女性の執行役員を一気に5人登用するということが話題となっています。伊藤忠商事でも執行役員候補となる職階の女性が多くいるわけではありませんが、女性社員を対象とした新しいルールを作り、登用を図りました。企業経営への適性に男女で差があるというのは、まったくの的外れな指摘です。ただ経験が足りなかっただけで、それは男性社会の中で形作られてきた〝男の仕事〟という誤った考え方に根付いたものです。
最後に、今年に入り女性活躍でもう一つうれしい話題がありました。1月13日にカタールで行われたサッカー男子・アジアカップのオーストラリア対インド戦で、山下良美氏が女性としては大会史上初めて主審を務めました。山下氏は既に女子ワールドカップや国内でのJリーグの試合で笛を吹くなど、着実に実績を上げてきており、審判としての実力は十分です。
今はまだ、世界の舞台や経済界で活躍する日本人女性の登場に驚くばかりですが、ほどなくそうしたことが当たり前の時代を迎えることになるのでしょう。そしてそれが、成熟した社会ということなのではないでしょうか。
(Kyodo Weekly・政経週報 2024年2月5日号掲載)
最新記事
-
被災高齢農家、懸念される気力・復興力 小視曽四郎 農政ジャーナリスト...
こともあろうに、元日の夕方に起きた大地震。住民は突然の大きな揺れと直後の家屋倒壊、さほど間を置かず...
-
日航、伊藤忠、サッカー主審... 女性活躍を物語る1年に 藤波匠 日...
活躍する女性の話題がいくつか飛び込んできました。まず驚いたのが、4月1日付で日本航空の社長に鳥取三...
-
クマ、春に指定管理鳥獣へ 週間ニュースダイジェスト(2月4日~2月1...
▼荷待ち削減、違反に罰金 24年問題、法改正案(2月5日) トラック運転手の残業規制適用で物流の停...
-
塩田跡地の牡蠣づくりは生態系づくり 中川めぐみ ウオー代表取締役 ...
「春は毎日のように、土を耕しています。生き物を育てるために大切なのは、健康に成長できる土台づくりで...
-
しなやかな連携で被災者を支援 沼尾波子 東洋大学教授 連載「よんな...
2024年元日は能登半島地震に始まった。半島という地形から、災害の起こり方も過去の大規模地震とは異...
-
避難先でも口腔ケアに歌 安武郁子 食育実践ジャーナリスト 連載「口...
能登半島地震で被害に遭われ、今も困難に直面している方々に心よりお見舞い申しあげます。そして、地震の...
-
23年農水産輸出2.9%増 週間ニュースダイジェスト(1月28日~2...
▼中小企業被害、数千億円 能登地震、伝統工芸に打撃(1月29日) 能登半島地震による中小企業や小規...
-
現場起点の脱炭素型農業に期待 青山浩子 新潟食料農業大学准教授 連...
食料の生産性と持続可能性を両立させるためのイノベーションを通じ、脱炭素社会を実現する。この御旗のも...
-
震災からの復興と離島振興 宮城県女川町 小島愛之助 日本離島センター...
元日に能登半島地震が起きると、宮城県女川町は6日、備蓄していたアルファ米や野菜ジュース、ポリタンク...
-
私たちができること 能登半島地震から学ぶ 株式会社共同通信社編集制作...
2024年の1月1日、能登半島をマグニチュード7・6の地震が襲った。地震や津波などによる「直接死」...