「近大マグロ」の一大生産地 小島愛之助 日本離島センター専務理事 連載「よんななエコノミー」
2023.12.25
奄美大島から大島海峡を隔ててすぐ南隣にある島が、鹿児島県瀬戸内町に属する加計呂麻(かけろま)島である。リアス式海岸の複雑な地形の間に分布するサンゴ由来の真っ白な砂浜と「加計呂麻ブルー」と呼ばれる青い海がコントラストをなしている。面積は77.25平方キロだが、地形が細長く海岸線が複雑に入り組んでいるため、海岸線は総延長147.5キロに及ぶ。島内には小さな集落が30カ所ほど存在し、約1200人の住民が暮らしている。
島の産業は、サトウキビの栽培、漁業、きび酢や黒砂糖の製造に加えて、民宿やペンション経営などの観光業である。東部の生間(いけんま)、中央部の瀬相(せそう)と奄美大島の古仁屋(こにや)との間には、瀬戸内町営の「フェリーかけろま」が1日4往復(瀬相)と3往復(生間)就航しているほか、海上タクシー乗合船が10往復(瀬相)と9往復(生間)している。島に大きな商店はないが、島民の多くは古仁屋港付近のスーパーマーケットでまとめ買いをしているという。
島の北側の薩川(さつかわ)湾は太平洋戦争当時、軍港として栄え、大和や武蔵など連合艦隊の戦艦が停泊していた。また、島内の各所に小型特攻ボート「震洋」が配備され、出撃命令を待っていた。このうち呑之浦(のみのうら)は、第18震洋特攻隊隊長だった小説家島尾敏雄の赴任地であり、その体験を描いた「出発は遂に訪れず」(新潮文庫)の舞台でもある。さらに、生間港の近くにある安脚場(あんきゃば)戦跡公園は旧日本軍の要塞跡であり、弾薬庫や砲台の跡をみると、大島海峡がいかに要衝の地であったかということが手に取るように分かる。
加計呂麻島はまた、渥美清の遺作ともなった寅さんシリーズ第48作目「男はつらいよ 寅次郎紅の花」の舞台でもあり、島内にはロケ地記念碑が6カ所(瀬相、諸鈍(しょどん)、於斉(おさい)、スリ浜、徳浜、勢里(せり))に設置されている。寅さんシリーズ4回目の登場となった「寅次郎紅の花」のマドンナ、浅丘ルリ子が演じるリリーの家のロケ地は、諸鈍にある樹齢300年以上の巨木群「デイゴ並木」の一画にある。また、島内にたくさん存在するガジュマルの中でも特に立派な於斉のガジュマルも重要なロケ地の一つである。
ところで、マグロ好きの方の間で有名な「近大マグロ」、その大きな生産地が瀬戸内町であるのをご存じだろうか。奄美大島と加計呂麻島の間の大島海峡で近大マグロは養殖されているのだ。近畿大学水産試験所では人工種苗から育てるクロマグロの完全養殖に成功しているが、その人工種苗の生産施設が瀬戸内町に立地している。完全養殖のためには、親マグロから卵を採取する必要があるが、大島海峡の水温がマグロの産卵に適していたのである。そして、養殖の最終的な成果物は、古仁屋漁港の「せとうち海の駅」をはじめとして、瀬戸内町の各所で味わうことができるまでに発展している。
確実な時代に求められる持続可能な農業だと思う。
(Kyodo Weekly・政経週報 2023年12月11日号掲載)
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