就農、学生目線で道しるべを 青山浩子 新潟食料農業大学准教授 連載「グリーン&ブルー」
2023.11.20
毎年、新潟食料農業大学の1年生を対象とした授業で、「農村と都市のどちらが好きか」を、「生活の場」、「仕事の場」の両方で答えてもらっている。
生活の場として回答は、数年間変わらず農村派と都会派がほぼ半々だ。食料・農業という冠が付いた大学に進学した若者ゆえ、農村を選択する学生が一定程度いるのは不思議ではない。それでも、年齢的に都会生活にあこがれる頃だ。都市派が農村派を上回っても不思議ではないが、「静かでのんびりできる」「自然にふれる機会が多く、空気や水がきれい」などの理由で半数が農村を選択した。
一方、仕事の場となると一変し、都市派が7割、農村派が3割となる。農村は好きだが、仕事のために都市を選ぶ学生が一定程度いる。理由として「職業の選択肢が広い」「給与が高そう」などが多い。
今年も同じ質問をするつもりだったが、担当科目が必修から選択へと変わり、受講者数が80人ほどに減り、経年比較ができないため別の聞き方をした。「あなたは職業として農業をポジティブに捉えているか、ネガティブに捉えているか」―。結果は「とてもポジティブ」「少しポジティブ」を合わせた回答率が64%だった。農村の代表的な職業である農業に対し、6割以上がポジティブに捉えており、今後の後継者の確保において明るい材料だ。
ポジティブに捉える最大の理由が「自然の中で仕事ができるから」だった。逆にネガティブに捉える学生の一番の理由が「天候や災害に左右されやすい」で、「体力を使う」「収入が少ない」などを上回った。人知が及ばない自然に対し、若者はポジティブ、ネガティブの両方で認識しているわけだ。授業中は積極的に意見を言わず、おとなしい学生が多いなか、自然に畏敬の念を抱いていることがうかがえる。
こういう学生たちに農業を選択してもらうには、農業界がまず、環境を整えていく必要がある。新卒を雇用したいという農業法人は多いが、採用や告知時期が他産業に比べて遅い。一般企業の募集や内定時期が年々早期化し、学生たちも就活を早めている中、農業界は対応できていない。
企業活動を学生自身が体験するインターンシップ制度の環境整備も急がれる。日本農業法人協会が受け入れ可能な農業法人をリスト化しているが、都道府県段階でも同じような窓口が必要だ。今どきの学生は「〇〇県で就職したい」と自治体を絞っている傾向が強い。先日、ある学生が「〇〇県の農業法人でインターンシップを受けたかったが、プラットフォームの窓口が県内になく、結局あきらめた」と話していた。
農業側は就農を促す支援体制を整えているが、タイミングや手法が学生の望むものになっておらず、チャンスロスを起こしている可能性がある。農業に前向きな学生が一定層いることに鑑み、学生目線で立って改善していく必要がある。
(Kyodo Weekly・政経週報 2023年11月6日号掲載)
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